研究課題/領域番号 |
18J21551
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
熊谷 尚悟 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | がん免疫 / 胃癌 / 制御性T細胞 / 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
近年、免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果が示された。がん免疫の本態はCD8+ T細胞による細胞性免疫だが、一方で免疫応答を抑制する仕組みとして制御性T細胞が存在し、がん免疫でも重要視されている。腫瘍局所の制御性T細胞は末梢血より多く存在し、抗腫瘍免疫応答を抑制するが、その詳細な機序の検討は十分でなく、免疫チェックポイント阻害剤の効果との関連も明らかではない。制御性T細胞が腫瘍局所に多く存在する要因の詳細を解明できれば、新規治療の開発や効果予測バイオマーカーにつながる可能性がある。本研究では胃癌にフォーカスし、抗腫瘍免疫応答、特に腫瘍局所のCD8+ T細胞や制御性T細胞と腫瘍ゲノム異常との関係を検討し、それに関わる因子を同定することを目的とした。平成30年度は胃癌手術症例の臨床検体を集積し、解析の結果得られた知見を説明する機序の解明のためin vitroで検討した。臨床検体を対象とし、フローサイトメトリーを用いて評価した腫瘍浸潤リンパ球に関するデータとRNAseqのデータを統合したところ、低免疫状態だが、制御性T細胞が多く浸潤する特徴的な一群が同定された。その一群の内の約半数が特定のドライバー遺伝子(gene X)変異を有していた。Gene Xの変異がCD8+ T細胞の浸潤を抑制し、制御性T細胞を存在しやすくする可能性があると考えられた。Gene X野生型、gene X変異型の強制発現株を作成した。Gene X変異型強制発現株ではgene X野生型強制発現株に比べPI3K/AKT経路が活性化することでCXCL10/CXCL11産生が低下した。さらに活性化制御性T細胞がCD8+ T細胞より有利に生存に活用できる脂肪酸の合成が促進していた。 以上よりgene Xの変異を有する癌では低糖高脂肪酸の腫瘍微小環境を作り、より制御性T細胞を生存させやすくする可能性があると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃癌患者の臨床検体の蓄積を行い解析した。マルチカラーフローサイトメトリーを用いた活性化制御性T細胞の解析と次世代シークエンシング技術によるゲノム解析のデータを取得する事ができた。得られたデータから、制御性T細胞と腫瘍遺伝子変異や発現の違いに関してgene set enrichment analysis等で解析した。また、in vitroでの検討も実施する。臨床検体を用いた検討で得られた制御性T細胞に関わる因子について、がん細胞の強制発現株を作成し評価を実施した。制御性T細胞の生存に有利な代謝産物の産生に変化が出ることを明らかにした。 これらは全て、研究計画作成時点で予定していた事であり、予定通り、順調に進呈していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度は更に臨床検体の蓄積を行い、検討を継続する。特に免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けた症例において、治療前後での腫瘍検体を採取し、免疫チェックポイント阻害剤に耐性の症例についても検体を蓄積し解析する。さらに前年までの臨床検体を用いた検討で得られた制御性T細胞を誘導するgene Xに関して、マウスのがん細胞の強制発現株を作成する。作成した細胞株をマウスに移植し、制御性T細胞の浸潤に変化が出るかを評価する。さらにシグナル阻害剤を投与することで腫瘍局所の制御性T細胞の浸潤に変化が出るかも評価する予定である。 平成32年度は蓄積した臨床検体で、これまで検討したgene Xの変異が制御性T細胞の浸潤に関わっているかや免疫チェックポイント阻害剤治療の効果予測に関わっているかを検討する。特に免疫チェックポイント阻害剤使用後に再生検している症例の検体があれば、治療前後の検体をペアで、これまでに同定したgene Xやそのシグナルの変化、制御性T細胞の免疫学的表現型の変化を評価し臨床応用につながるかを検討する。免疫チェックポイント阻害剤治療マウスモデルを使用して遺伝子やシグナルを制御し制御性T細胞をコントロールすることで有効性が高まるかを評価する予定である。
|