研究課題/領域番号 |
18J21579
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村田 勇樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | モレキュラービーコン / 細胞内徐放 / mRNA / 増殖能 / エネルギー代謝経路 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、前年度に確立したモレキュラービーコン(MB)細胞内徐放システムの応用・展開を行った。MBは、細胞内で様々な生物機能を制御するmRNAを検出する核酸イメージングプローブである。生体吸収性高分子であるゼラチンからなるナノ粒子にMBを内包させ、ゼラチンナノ粒子の分解に伴ってMBを細胞内で徐放する(=MB細胞内徐放)ことで、細胞内mRNAを特異的かつ長期にわたって検出することが可能となった。細胞の増殖能を可視化するため、増殖マーカーとして一般的に用いられるKi67のmRNAに対するMBを設計し、これをゼラチンナノ粒子に内包させた。Ki67 MB内包ゼラチンナノ粒子は、マウス間葉系幹細胞に効率よく取り込まれ、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の添加に応答して蛍光強度が増加した。さらに、この蛍光強度増加は、Ki67のmRNA発現増加および細胞増殖とよく相関していた。次に、マウス胚性幹細胞(ES細胞)の分化に伴うエネルギー代謝経路変化を、上記のMB細胞内徐放システムを用いて可視化することを試みた。未分化細胞は主に解糖系に依存してエネルギーを産生する一方で、分化細胞は酸化的リン酸化が優位となることが知られている。そこで、解糖系および酸化的リン酸化においてそれぞれmRNAの発現増加が知られる、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ 1(PDK1)、およびペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子-1α(PGC-1α)に対するMBを設計した。これらのMBを内包するゼラチンナノ粒子を、未分化ES細胞、初期分化誘導ES細胞、および神経分化誘導ES細胞に取り込ませたところ、細胞の分化状態に応じてMBの蛍光強度が異なることがわかった。このように、MB細胞内徐放技術は、細胞の生存機能だけにとどまらず、細胞の増殖能、およびエネルギー代謝経路を可視化する技術へと展開することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MB細胞内徐放システムによって、細胞死にとどまらず、細胞の増殖能やエネルギー代謝経路を可視化することができた。これにより、標識された細胞集合体内部における細胞死と、これらの生物機能の相関関係を明らかにする可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
MB内包ゼラチンナノ粒子は、細胞死、細胞増殖能、およびエネルギー代謝経路を可視化するセンサーとして有効に機能することがわかった。次年度は、標識された細胞から3次元細胞集合体を構築する。共焦点レーザー顕微鏡を用いることで集合体内部の細胞死を非破壊的にイメージングするとともに、複数種のMBを組み合わせることによって、細胞死と他の生物機能との相関を明らかにする。
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