研究課題/領域番号 |
18J21605
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥村 傑 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超弦理論 / AdS/CFT対応 / 可積分変形 |
研究実績の概要 |
重力の量子化は、時空そのものの起源や構造を解明するために必要不可欠であり、宇宙の成り立ちに関わる重大な課題である。しかし重力の紫外領域の探求は、相互作用がIrrelevantなために扱いが難しい。 重力の量子論的側面を理解するうえで、TTbar-変形というIrrelevantな変形が重要な役割を果たすことが近年明らかになってきた。TTbar-変形は2次元の場の理論において、エネルギー・運動量テンソルの行列式によって誘導される変形であり、系の可積分性を保つことから、エネルギー固有値や熱力学量を厳密に計算できるという著しい性質を持つ。注目すべき結果として、TTbar-変形は平坦時空周りの重力摂動と等価性であり、この変形は重力による時空の揺らぎを場の理論によって記述している。 本年度の研究目的は、重力と場の理論のIrrelevantな変形との対応関係を一般の曲がった時空上で検証することである。対応を具体的に示すために、一般の2次元ディラトン重力模型における重力の効果を摂動展開して、場の理論のどういった変形に対応しているのか調べた。 本年度の研究により、ディラトン重力模型の摂動を物質場理論の変形としてあらわす具体的な表式を与えた。この時、ポテンシャルをLiouville型にとることで、場の理論の変形がAdS時空上で定義されるTTbar-変形とみなせることを示した。同時に、Liouville理論においては摂動的な解析が有限の変形パラメータに対して非摂動的に拡張できることも分かった。この結果はAdS時空における時空の揺らぎが場の理論によって記述可能であることを意味する。さらに、Liouville理論は高次元の重力理論に埋め込み可能であることから、この解析を高次元の重力に適応することで、より一般の時空の揺らぎを場の理論により表現可能であることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究によって、曲がった時空における重力摂動を場の理論の変形として表現する具体的な表式を与えることができた。注目すべき成果として、ディラトン場のポテンシャルをLiouville型にすることによってAdS時空に対しては非摂動的に取り扱うことができることが分かった。AdS時空での解析はAdS/CFT対応をはじめ超弦理論の分野への応用でき、曲がった時空における重力の量子効果の理解に進展をもたらす。以上のように2019年度の研究によって十分な成果をあげたといえ、重力の量子効果の理解という研究目標に向けて順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
AdS時空における重力摂動と場の理論の変形との関係をもとに、AdS/CFT対応が重力作用によって変形した時空においても成立するのか検証を行う。具体的にはブラックホール解から系の熱力学量を算出するとともに、境界上に対応する理論の相関関数を重力側から評価する。2次元のAdS時空上の重力理論には1次元の量子多体系が対応するはずであるが、現在までに具体的に対応する模型の構築には至っていない。一つの問題は重力作用による共形対称性の破れがどのように境界上の理論で実現しているのかが確立されていなことである。しかし、申請者の研究によって、この破れは2次元の場の理論の変形として理解可能であり、物理量の変化も系統的に扱うことができると予想される。これらの情報は対応する量子多体系を解明する新しい手掛かりとなるであろう。
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