研究課題/領域番号 |
18J21619
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹中 彰 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 核子崩壊探索 / 大統一理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大統一理論の証拠となる核子崩壊を発見、または、その崩壊寿命に世界最高の制限をつけることである。世界最大の二層式水チェレンコフ検出器であるスーパーカミオカンデ検出器(以下SK)を用いて核子崩壊事象の探索を行う。核子崩壊発見感度のさらなる向上を目指し、核子崩壊探索統計量向上に直結するSKの解析使用領域 (以下有効質量)拡張の研究を実施した。これまでの有効質量は検出器壁面からの離隔距離が2 m以上の範囲と定義されており、これを1 mに拡張し(統計量20%向上に相当)核子崩壊事象(p→e+π0、p→μ+π0)の探索を行なった。 前年度までに、有効質量拡張に向けたソフトウェア開発が完了しており、それらを用い、核子崩壊事象の信号検出効率、大気ニュートリノ由来の期待背景事象数を求めた。さらに、それぞれについて、事象再構成由来の系統誤差とシミュレーションで仮定している物理モデル由来の系統誤差を求めた。そして、有効質量拡張(統計増加)により、核子崩壊の探索感度が約12%向上することを確認し、研究の実現性を示した。 最新の論文の結果に比べ、観測時間増加で約25%、有効質量拡張で約20%、合わせて約50%向上したSKの過去23年分の観測全データを用いて、核子崩壊事象の探索を行った。探索の結果、p→e+π0は候補事象0、p→μ+π0は候補事象1で期待背景事象数(p→e+π0:0.59, p→μ+π0:0.94)に対する有意な信号の超過は観測されなかった。そして、p→e+π0: 2.4×10^{34}年、p→μ+π0:1.6×10^{34}年(C.L.90%)という前論文の結果を1.5から2倍更新する世界最高の制限を陽子寿命の下限値につけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拡張した検出器領域での物理事象に対する検出器応答の系統誤差は未評価であった。そこで、宇宙線ミューオン、ミューオン崩壊由来の電子、大気ニュートリノを用いて、観測データとシミュレーションの予測を比較することにより、事象再構成性能に関して観測データとシミュレーション間の違い(系統誤差)を見積もった。主に、事象再構成能力の悪化の影響で、拡張した有効体積領域での系統誤差は、既存の有効質量領域の数字と比べて、15%程度大きくなることがわかった。しかし、その系統誤差の増加を考慮に入れた場合でも、有効質量拡張(統計増加)により、核子崩壊の探索感度が約12%向上することを確認し、系統誤差の増加による影響は限定的であることを示した。 期待される背景事象数と比べて、有意な信号の超過は見られず、核子崩壊の発見とはならなかったが、大気ニュートリノシミュレーションの予測は観測データをよく再現しており、背景事象の振る舞いがよく理解されていることを示した。 本結果は、陽子の寿命に世界で最も厳しい制限を与えるもので、投稿論文にまとめ出版する予定である。 よって、現在まで概ね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年中に現在執筆中である投稿論文を出版する。 大統一理論の検証のためには、特定の核子崩壊モードだけでなく、既に提唱されているあらゆるモードを網羅的に検証していくことが極めて重要である。 スーパーカミオカンデ検出器の有効質量拡張は、特定の核子崩壊モードだけでなく、あらゆる崩壊モードについて感度向上を可能にする。そこで、特に超対称性大統一理論で示唆されているp→νK+モードへの探索への応用を試みる。このモードはp→e+π0、p→μ+π0モードとは期待される信号事象のトポロジーが大きく異なる。そこで、拡張領域における事象再構成性能を詳細に調査し、信号検出効率、大気ニュートリノ由来の背景事象混入率を評価する。有効質量の拡張の達成と、検出器観測時間の向上と合わせて、最新の論文から約70%の統計量向上が期待される。さらに、信号と背景事象を選別する際に、機械学習技術を用いた多変数解析の導入を検討している。現在の解析では、各変数について単純なカットを用いた解析が行われている。新しい解析方法の導入で、既存の解析方法と比べ改善が見込まれるか、解析にバイアスをもたらすことはないかなどを確認し、最終的には、p→e+π0、p→μ+π0モードと同様にSKの過去23年分の全データを用いて探索を行う。
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