研究課題/領域番号 |
18J21663
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊澤 俊太郎 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / マウス / 睡眠 / 記憶 / 視床下部 / メラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経) / 海馬 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
睡眠は記憶の「固定」だけではなく不必要な記憶の「忘却」にも働く。しかし、睡眠中に記憶忘却を引き起こす神経回路はこれまで見つかっていなかった。研究代表者は、視床下部のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)が記憶忘却をもたらすことをマウスを用いた検証から明らかにした。MCH神経は視床下部外側野に細胞体が局在するが、遺伝子発現パターンによって大きく2つの群に分かれることが報告されている。さらに研究代表者らは、マウスの頭に搭載可能な約2 gの超小型顕微鏡通じてMCH神経の活動を1細胞レベルで記録し、MCH神経には、①覚醒時活動型、②レム睡眠時活動型、③覚醒時とレム睡眠時活動型の3種類が存在することを特定した。①、②に比べ③の数は限られており、MCH神経は「覚醒時活動型」と「レム睡眠時活動型」の2つの細胞集団に大別できた。 そこで本年度は、「覚醒時活動型」と「レム睡眠時活動型」どちらのMCH神経集団が忘却に寄与するかの特定を目的とし、リアルタイム脳波/筋電記録と光遺伝学を組み合わせた検証を行った。記憶保持期間14時間中での覚醒/ノンレム睡眠/レム睡眠、それぞれのステージ特異的にMCH神経活動を抑制し、その後の記憶成績を比較した。行動試験の結果、覚醒中とノンレム睡眠中のMCH神経抑制は記憶成績に影響せず、レム睡眠中のMCH神経抑制のみが記憶成績を向上させた。「レム睡眠時活動型」のMCH神経集団のみが記憶忘却の働きを持ち、これを抑制することでの記憶成績向上を示す結果である。睡眠の質を示す脳波成分はいずれのステージのMCH神経抑制によっても変化はなく、レム、ノンレム睡眠ともに影響を受けていなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
睡眠ステージ変化に応じた光照射On/Offシステムを確立したことで上述の実験を実現し、MCH神経によるレム睡眠時特異的な記憶忘却を示した。本結果を含めた論文が2019年9月に出版された。 キッセイコムテック社の提供するソフトウェア「Sleep Sign Recorder」を用いることで、マウス脳波を4秒エポックごとにリアルタイムに解析できる測定システムを確立した。マウス個体ごとに平常時睡眠脳波を十分な日数測定し、覚醒/ノンレム睡眠/レム睡眠のステージ変化を定義する脳波成分の閾値を設定することで、睡眠状態に応じたトリガー信号を85~95%の精度で出力することに成功した。トリガー信号On/Offに応じマウス脳内のLED光を点灯させることで、光受容体を発現させた特定の神経細胞の活動を操作することができる。マウスが物体の形状に関わる記憶を保持している期間に、本システムによってMCH神経活動を抑制した。結果、覚醒中やノンレム睡眠中のMCH神経活動抑制は記憶成績に影響しなかった一方、レム睡眠中のMCH神経活動抑制は記憶成績を向上させた。レム睡眠時のMCH神経活動のみが記憶忘却を司ることを示す結果である。「覚醒時活動型」と「レム睡眠時活動型」の2つの集団に大別されるMCH神経の中で、「レム睡眠時活動型」のMCH神経のみが記憶忘却を制御していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
「覚醒時活動型」と分類されるMCH神経の機能解明を今後の研究の推進方策とする。 研究代表者はこれまでの研究でMCH神経が「覚醒時活動型」と「レム睡眠時活動型」の2つの集団に大別されること、「レム睡眠時活動型」のMCH神経が記憶を忘却する働きを有することを特定した。そこで今後は「覚醒時活動型」のMCH神経の役割について検証する。MCH神経は投射経路や発現する分子によっても分類がされ、海馬や大脳皮質に投射する高次機能調節性と延髄や脊髄に投射する生存機能機能調節性の2種類のMCH神経が存在することが報告されている。研究代表者の研究において、「レム睡眠時活動型」のMCH神経が高次脳機能である記憶を調節したことより、「覚醒時活動型」のMCH神経は延髄や脊髄への投射を通じてエネルギー消費等の生存機能に関わる可能性が予想される。そこで、「覚醒時活動型」のMCH神経を操作した際の酸素消費量や摂食量の変化を検証する。具体的には、遺伝子改変マウスとアデノ随伴ウイルス(AAV)の局所注射を組み合わせた機能タンパク発現によってMCH神経を特異的に活性化/抑制したマウスを用い、外気から遮断されたメタボリックチャンバー内での呼気を分析する。同時に赤外線センサーを通じた自発行動量や摂食・飲水量についても測定を行い、マウスのエネルギー消費に関連するパラメーターを網羅的に解析する。また、逆行性感染するAAVを用いることで延髄に投射するMCH神経を特異的に操作した場合のエネルギー消費変化についても測定を行い、in vivoカルシウムイメージングによって当該MCH神経の活動パターンが「覚醒時活動型」であることを検証する。
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