地球最深部を占める中心核の化学組成は地球の起源や進化を理解するうえで重要である。その推定には、高温高圧実験で決定される地球深部候補物質の音速データと地震波観測値の比較が有効である。内核組成を高い信頼度で決定するには、広い圧力・温度・組成条件において地球深部候補物質の音速測定を行う必要がある。本研究では、フェムト秒パルスレーザーpump-probe法を用いて中心核条件で鉄合金の音速測定を行うことで中心核の組成に強い制約を与えることを目指した。 令和2年度は、中心核の候補物質とされているFe-H合金に着目した。本研究では面心立方 (fcc) 構造のFeHの音速を従来よりも高い~100 GPaまで測定した。その結果、fcc FeHの縦波速度(VP)の圧力依存性は~60 GPaで不規則に変化することを確認した。 また、地球の下部マントルは中心核の直上に位置し、全地球体積の約55%を占める。地球内部で最大の層であるがゆえ、その化学組成を決めることができれば、本研究課題のゴールである中心核の組成にも強い制約を与えることができる。本年度は、下部マントルの第2主要鉱物と考えられているferropericlaseのVP測定を実施した。外部抵抗加熱法とフェムト秒パルスレーザーpump-probe法を組み合わせる技術開発も行い、28 GPaにおいて750 KまでのVP測定に成功し、より下部マントルに近い条件での実験を実現した。前年度までに測定を行っていた主要構成鉱物bridgmaniteのデータを組み合わせて、地震波観測との比較から化学組成を見積もった結果、下部マントルは定説よりもSiに富むバルク組成を持つことを示唆する結果を得た。これまでに得られた実験結果から、Fe-Ni-Si-H合金が地球中心核を形成している可能性が高いことがわかった。
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