研究課題/領域番号 |
18J21665
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
向井 康敬 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 神経活動修飾 / オレキシン / カルシウムイメージング / CRISPR / ゲノム編集 / ドーパミン / 睡眠覚醒 / CRF |
研究実績の概要 |
視床下部に存在するオレキシン(ORX)神経は覚醒の維持に重要とされているが、その活動の制御様式は十分わかっていない。神経活動を細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の変化として測定するため、ORX神経特異的にCa2+指示タンパク質であるYellow Cameleon-Nano50(YC)を発現する遺伝子組換えマウス(ORX-YCマウス)を作出した。ORX-YCマウス脳スライス標本においてドーパミン(DA: 100 μM)を2分間投与すると、Ca2+濃度が1時間以上持続的に上昇することを見出した。さらに選択的拮抗薬を用いた検証によって、持続的な上昇がD1様受容体を介して生じる可能性を見出した。本年度は新たに、D1様受容体のうちD1受容体について、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子導入法と、ゲノム編集法を組み合わせて用いることで、生体マウス脳視床下部において後天的なノックアウトを行う実験手法を確立した。そして、ORX-YCマウスの視床下部でD1受容体を後天的にノックアウトした結果、DAによるORX細胞内Ca2+濃度の持続的な上昇が抑制されることを見出した。本成果は、生理活性物質の神経活動に対する作用として、これまで着目されてこなかった長期的な影響(神経活動修飾)を発見し、さらにそれに関与する分子メカニズムの一端を見出した点で重要と考えられる。また本年度は、別の視床下部神経であるコルチコトロピン放出因子(CRF)神経細胞についても研究を進めた。視床下部CRF神経細胞は、血圧上昇や血糖値上昇などの生体のストレス応答に重要とされているが、ORX神経と同様にその活動の制御様式は十分わかっていない。そこで視床下部CRF神経でORX神経と同様に神経活動を制御する物質の探索を行ったところ、合計15物質によりCa2+濃度変化が生じることを見出した。これらの結果は、第42回日本神経科学大会(新潟)など、計7回の学術集会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視床下部オレキシン神経細胞内カルシウムイオン濃度の長期的上昇に関与する受容体が、ドーパミンD1受容体であることをゲノム編集法を用いて遺伝学的に同定できた。またオレキシン神経とは異なる神経細胞でも、生理活性物質により細胞内カルシウムイオン濃度変化の生じることを見出した。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたオレキシン(ORX)神経特異的にCre組換え酵素を発現するマウスにおける実験については、アデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子導入がうまくいかなかった。そこでORX神経特異的にFlp組換え酵素を発現するマウスを用いてD1受容体ノックアウトを再度試みる。新たに作出する視床下部オレキシン神経特異的D1受容体ノックアウトマウスの脳スライス標本を用いて、ドーパミンによって誘導されるオレキシン神経細胞内カルシウムイオン変動における、D1受容体の関与を機能的に検証する。また別の視床下部神経であるコルチコトロピン放出因子(CRF)神経についても生理活性物質による神経活動修飾について検証し、神経活動修飾がORX神経以外でも生じているかどうかを検証する。
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