研究課題/領域番号 |
18J21667
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
勝見 亮太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 量子ドット / 集積量子フォトニクス / シリコンフォトニクス / 転写プリント / ハイブリッド集積 |
研究実績の概要 |
光量子演算のスケールアップに向けて、大規模光回路の作製に適したシリコン(Si)フォトニクスの活用が大きく注目されている。一方、スケーラブルな光量子回路の構築には、自己形成量子ドット(QD)に代表される、決定論的動作が可能な量子光源の集積が必要となる。しかし、化合物半導体で形成されるQDをSi光回路上にハイブリッド集積する場合、Si-CMOSプロセスとの整合性を担保することは容易ではない。さらには、QDの空間・波長ばらつきにより、所望の光源を所望の位置に集積することは極めて困難である。そこで我々は、これらの課題を解決する手法として、ピックアンドプレース操作に基づいた転写プリント法の利用を提案している。今回、同手法を用いてSi-CMOS光回路上へQD光源を集積し、単一光子発生とその導波路伝搬の観測に成功した。本研究で用いた手法はCMOSプロセスされた大規模・高性能な集積光回路への量子光源の導入を可能にすることから、大規模光回路の構築への可能性を切り拓くことが期待される。 上記において、Si-CMOS光回路上へQD単一光子源を集積することに成功したが、光量子回路の将来的な高効率動作に向けて、光チップ上でのさらなる光子の高効率な利用が重要となる。そこで今回、Si上集積QD光源において、転写プリント法に付随する作製誤差の下でも光子の高効率な導波路結合(>99%)と一方向出射が可能な光構造の設計に成功した。さらに今回、設計した構造を転写プリント法により作製し、光子の一方向出射と単一光子性の観測に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究成果に関して、特別研究員はピックアンドプレース操作に基づいた転写プリント法を用いてシリコン光導波路上へ量子ドット単一光子源を集積し、単一光子発生とその一方向出射の観測に成功しており、期待以上に成果を出してくれていると言える。同成果は、国際雑誌に投稿準備中である。さらに、特別研究員が国際学会誌APLに投稿した論文はEditor’s pickに選ばれており、特別研究員の研究成果が世界的に非常に高く評価されていると言える。さらに、特別研究員は国際学会CLEO 2019においてMaiman Student Awardのファイナリストに選出されているほか、国際学会や国内学会においても数多くの口頭発表を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
大規模化可能な集積光量子回路の実現に向けて、本研究ではまず転写プリント法を用いて2 つの可干渉な量子ドット(QD)をシリコンフォトニクス回路上に同時集積し、基本的な量子干渉の観測を目指す。その1 つとして、2 つの識別不可能な光子がビームスプリッターを通じて干渉すると、2 光子は揃って片側のポートから出力されるHong-Ou-andel(HOM)干渉の観測に取り組む。まずシリコンによるビームスプリッターの最適な構造を電磁界計算を用いて設計し、実際に作製を行う。この回路上に、低温顕微分光測定に基づくプレスクリーニングにより選抜した2 つのQD-ナノビーム共振器結合系を、フォトニック結晶ミラーに対して位置制御をしながらそれぞれ転写プリントする。このとき、QD と結合したナノビーム共振器のプレスクリーニングには膨大な時間がかかるため、多数のQD-ナノビーム共振器結合系から近しい波長をもつものを一挙に特定するプレスクリーニング技術を開発し、劇的な時間短縮および将来的なさらなる大規模化への礎とする。次に、それぞれのナノビーム共振器末端に金属蒸着をして光学ヒーターパッドを作製する。それらに個別にレーザーを照射してQD 周囲の温度を制御することで、両者のQD 発光波長を精密に揃える。さらに、Xe ガスを共振器上に堆積させて共振器モードをシフトさせ、両者の共鳴波長も同時に一致させる。プレスクリーニングに加えたこの超精密な波長制御により、独立した2 つのQD光源が光回路上において干渉可能になる。このようにして波長が一致した2 つのQD-ナノビーム共振器結合系を外部レーザーによって励起し、単一光子をそれぞれ導波路へ入力する。励起タイミングを調整しながら2 光子を回路上で干渉させることで、シリコンチップ上におけるHOM 干渉の実現を目指す。
|