研究実績の概要 |
炎症性腸疾患患者から分離されたクレブシエラを無菌マウスに定着させ、クレブシエラ単独定着マウスを作成した。そのマウスの胃内に5人の健康ボランティアからの糞便を投与した。いずれの便投与でもクレブシエラの菌量は著明に低下し、健常者の腸内細菌の中にはクレブシエラを排除する菌が存在することが示唆された。 この5つの糞便サンプルのうち、3種類の便(サンプル#F、I、K)から菌を嫌気性下で培養した。F便からは37種類、I便からは42種類、K便からは47種類の菌を単離した。F, I, Kからの単離菌をそれぞれ混合し、クレブシエラ単独定着マウスに投与すると、F便由来の37菌株は便と同程度のクレブシエラの菌量の低下が見られた。一方I, K便由来の菌株セットでもクレブシエラの菌量の減少は見られたものの便ほどの減少ではなかった。単離したF由来の37菌株にはクレブシエラを腸管から排除する菌が含まれていると考えられた。 F便由来の37株を投与したクレブシエラ単独定着マウスに、抗生剤(アンピシリン)を飲水投与したところ、クレブシエラの菌量は一時的な増加が見られたがその後減少した。この間の37種類の菌の菌量の推移をqPCRで確認し、クレブシエラの菌量との相関解析を行った。スピアマンの順位相関係数において負の相関が見られた菌株が20種類あり、この20種類の菌をクレブシエラ単独定着マウスに投与してもクレブシエラ排除効果が見られ、残りの17株を混合して投与した場合はクレブシエラの菌量は多いままであった。Fから単離した菌株セットにはクレブシエラを腸管から排除する能力を持っており、これらをプロバイオティクスと使用することで耐性菌や炎症性腸疾患の新たな治療薬となり得る可能性が期待できる。
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