研究課題/領域番号 |
18J21698
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田村 佑介 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳がん / EMT / TGF-β |
研究実績の概要 |
本研究課題では、トリプルネガティブ乳がんにおけるEMTや炎症関連因子のがん転移への影響を、EMTと深い関わりがあるとされるTGF-βシグナルと免疫関連転写因子に関連させて研究してきた。しかし、系の確立の困難等があったことに加え、近年、着目していた免疫関連転写因子をがん細胞内で活性化するシグナルが腫瘍抑制作用を示すことが多く報告されているため、TGF-βシグナルに対する免疫関連シグナルの影響を検討することとした。 2018年度までにおいて、免疫関連シグナルを活性化するリガンドがTGF-βシグナルをトリプルネガティブ乳がん細胞株で抑制することを見出してきた。
2019年度は、トリプルネガティブ乳がん細胞でリガンドがTGF-βシグナルを抑制することの生物学的意義を詳細に解析した。恒常活性型Smad3 (caSmad3) 過剰発現株を作成し、リガンドによって起きる細胞死に対するTGF-βシグナル抑制の寄与度を確認した。具体的には、リガンドが誘導する細胞死に対するcaSmad3の過剰発現の影響をAnnexinVおよびPIの染色によって評価した。すると、リガンドによって大きく上昇するAnnexinV+、PI+の細胞分画がcaSmad3の過剰発現によって一部減少することが分かった。また、リガンドが誘導する細胞死は、汎カスパーゼ阻害剤であるZ-VAD-FMKによってほとんど抑制されたことからカスパーゼの関与が疑われた。そこでリガンドの有無、およびcaSmad3の過剰発現の有無によってカスパーゼ3/7の活性を測定したところ、リガンドによって上昇するカスパーゼ3/7の活性がcaSmad3の過剰発現によって抑制された。以上より、腫瘍抑制作用を示すリガンドは、TGF-βシグナルを抑制することにより、TGF-βシグナルの持つ生存促進作用を抑制することでより細胞死を起こりやすくしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、免疫関連シグナルを活性化するリガンドによるTGF-βシグナルの抑制がトリプルネガティブ乳がんにおいて生物学的意義があることを見出した。このことはリガンドのトリプルネガティブ乳がんに対する治療有効性を示唆するものであり、治療の選択肢が広がる根拠となり得ると考えられた。また、細胞死のメカニズムを明らかにすることでTGF-βシグナルの新たな側面が明らかとなりつつあり、今後の展開が期待されることから、本研究は当初の計画以上に進行したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下の点に関して検討を行っていく予定である。 ・リガンドによって起こり、caSmad3の過剰発現によって部分的に解除される細胞死に関して、その詳細な特徴やメカニズムを明らかにする。 ・マウス乳がん細胞を使用して、実際にマウスモデルを用いた治療実験を行い、上述のように培養細胞実験で見出してきたTGF-βシグナルへの影響などについて検討する。
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