2019年度までの研究では、トランスフェクションによる腫瘍内投与で治験薬として欧米で開発がなされているpolyI:Cを使用して、予後不良であるトリプルネガティブ乳がん (TNBC) において、polyI:CによりTGF-βシグナルが抑制されること、またTGF-βシグナルの抑制により細胞死が促進することを明らかにしてきた。 2020年度は、polyI:Cによる細胞死の様式をより詳細に解析した。TNBCにおけるpolyI:Cのトランスフェクションによる細胞死がカスパーゼ依存的であったことに加えて、細胞の泡沫化、細胞内容物の顕著な放出が確認されたり、ガスダーミンEの切断断片が確認されたことから、polyI:Cのトランスフェクションがパイロトーシスを引き起こすことが示唆された。 そこで次に、恒常活性型Smad3 (caSmad3) を過剰発現した際に抑制される細胞死がパイロトーシスである可能性を検討した所、TNBCにおけるcaSmad3の過剰発現によって、polyI:Cによる細胞内容物の放出は抑制され、ガスダーミンEの切断も抑制されていた。caSmad3の過剰発現が、polyI:Cにより上昇するカスパーゼ3/7の活性を抑制していたことも併せると、polyI:CがTGF-βシグナルを抑制することによって、TGF-βシグナルのもつカスパーゼ3を介したパイロトーシスの抑制作用を減弱させ、パイロトーシスをより加速させていることが示唆された。 最後に、マウスモデルを使用して、マウスに移植した乳がん細胞にpolyI:Cを腫瘍内投与することによる治療実験を試みたところ、polyI:Cの腫瘍内投与によって、腫瘍重量が有意に減少し、腫瘍内のpSmad3のシグナルが減弱しており、in vivoにおいてもpolyI:CによるTGF-βシグナルの抑制を介した腫瘍抑制作用が現れる可能性が示唆された。
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