本研究では、2015年から2018年までにLHC-ATLAS実験で取得した積分ルミノシティ139 fb-1、重心系エネルギー13 TeVの陽子陽子衝突データを用いて、ヒッグス粒子がμ粒子2つに崩壊する過程(H→μμ)を探索した。この探索は、第二世代フェルミオンであるμ粒子の質量獲得も標準模型が予言するヒッグス機構によるものであるかの検証を可能にするものである。 本年度は、より多くの信号事象を捉えるために、今までの解析では扱っていなかったヒッグス粒子生成過程(VH/ttH過程)に特化したカテゴリーを導入し、事象選別やカテゴリー分けの条件を最適化した。また、信号事象数を大きなバイアスなく抽出するために、複数のシミュレーションサンプルやデータのサイドバンド領域を使用して、背景事象のモデル関数やフィット手法の妥当性も確認した。本解析の結果、2σを超える統計的有意度でH→μμ崩壊の兆候を観測し、標準模型で期待される信号数に対する信号数の測定値(信号強度)として1.2±0.6という標準模型と無矛盾の結果を得た。この結果は、第二世代フェルミオンの質量起源も第三世代フェルミオンと同様にヒッグス場との湯川結合から生じていることを初めて示唆する結果であり、フェルミオンの質量起源とフェルミオンの世代の謎を解明する上で重要な要素を提供する。さらに、標準模型を仮定すると、将来のLHCおよび高輝度LHC実験においてH→μμ崩壊を5σ以上の統計的有意度で発見することが期待されることも示した。
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