研究課題/領域番号 |
18J21706
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
広重 聖奈 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アクリレート微粒子 / ラテックスフィルム / ミニエマルション重合 / ロタキサン架橋剤 |
研究実績の概要 |
本課題の研究目的の一つである強靭な微粒子フィルムを作製するためには、基本的な微粒子フィルムの力学特性を知る必要があるが、これらの報告は極めて少ない。そこで、微粒子フィルムの構造と力学特性との関連を明らかにすることで、従来使用されていたVOCを削減でき、環境調和型コーティング材料の開発に繋がるのではないかと考え、実験を行った。 ①微粒子合成 / 微粒子フィルム形成:本研究を進めるにあたり、一連の微粒子はすべてミニエマルション重合により作製した。本重合は、ナノサイズの微粒子が得られること、ロタキサン架橋剤が導入できることから(Hiroshige et al., Chemistry - A European Journal, 23, pp8405-8408 (2017).)、様々な用途への応用が期待できるため選択した。微粒子のガラス転移温度(Tg)を段階的に変化させ、Tg以上/以下でフィルムを成膜することでナノ構造の異なるフィルムを作り分けた。 ②ラテックスフィルムの構造評価:顕微鏡測定から、微粒子のTgが上昇することで微粒子形状がはっきりと残ること、Tg前後で微粒子の変形度合いが異なることが示された。以上の定性的な評価に加え、小角X線散乱法により特性界面厚みを算出し、微粒子界面の高分子鎖の相互貫入の度合いを定量的に評価した。 ③ラテックスフィルムの力学特性評価:これらのラテックスフィルムを一軸伸長試験により評価した。Tg以下で成膜したラテックスフィルムは、Tg以上で乾燥させたフィルムと比較し、破断ひずみ、破断応力ともに小さくなった。これは、微粒子のTgに対して成膜温度が低いことで、微粒子の形状が残存しやすくクラック等が形成しやすくなったこと、特性界面厚みが小さいことから微粒子の界面から破断しやすいことが考えられる。本特性は、アニーリング後も引き継がれることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、研究テーマは進展していると考えられる。本年度は、微粒子分散液を成膜する際の温度に着目し、ナノ構造とマクロな力学特性との関連性に関して検討を行った。既報では、ナノ構造とラテックスフィルムの力学特性とを関連付けている事例は少なく、さらに添加剤無しでフィルム化している報告に至っては、ほぼ皆無である。そこで、本研究ではまずこれらの基本的な関係性を明らかにすることを目的に実験を進めてきた。すると、成膜温度によって変化したナノ構造は、マクロ的なフィルムの物性に大きく影響すること、アニーリングを行ってもその特性が引き継がれることを明らかにした。本研究の関連論文がアクセプトされたほか、国内での学会での発表、国際学会での発表も行った。
また、ラテックスフィルムのナノ構造と力学特性とのさらなる解明に向けて、微粒子界面の緩和に着目した評価法にも着手しており、来年度も大きな成果をあげることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の研究目的である、超分子架橋を施したより強靭な微粒子フィルムを作製し、さらにその微粒子フィルムに対して機能性を持たせるために、以下の二点に焦点を当て、研究を進める。 1 ロタキサン架橋の軸の長さが微粒子フィルムの力学特性に与える影響の調査 微粒子内部に導入するロタキサン架橋剤の可動領域に着目する。軸の長さを変化させた3種類のロタキサン架橋剤(分子量: 約1000、3000、5000 g/mol)を用いた微粒子を作製し、得られた微粒子単体の基本的な性質を、顕微鏡法や動的光散乱法により明らかにする。その後、ロタキサン架橋した微粒子を用いて、成膜温度やアニーリング時間を変化させながら、ナノ構造の異なるラテックスフィルムを得る。これらのフィルムを、顕微鏡観察によりフィルム表面の微粒子の形状観察、小角X線散乱法による高分子鎖の相互貫入の定量化を行い、得られたフィルムのナノ構造を明らかにする。さらに、力学試験を行うことで、軸分子の長さが異なるロタキサン構造がマクロな微粒子フィルムの物性に与える影響を調査する。ナノ構造とマクロな物性の相関性を明らかにすることで、強靭な微粒子フィルムを作製するための設計指針を確立する。 2 生体適合性微粒子の開発 上記以外にも、生体適合性を示すポリ2-メトキシエチルアクリレートを用いた高分子微粒子の合成や成膜性の評価等にも携わり、微粒子フィルムのさらなる機能化の向上にも努めている。
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