本研究の課題の目的の一つである、エラストマー微粒子を用いた強靭な透明フィルムを作製するためには、ラテックスフィルムの力学特性を支配するパラメータを知る必要があるが、これらの報告例は極めて少ない。これらのパラメータに着目し、強靭なラテックスフィルムを作製するための設計指針を得ることで、フィルムを強靭化するために使用されていた添加剤(融着補助剤、架橋剤、加硫促進剤など)の削減や、添加剤が要因と考えられるアレルギー症状等の緩和につながると考え、実験を行った。 今回、フィルムのナノ構造に関与すると考えられる2種類のパラメータに着目した。一つ目は微粒子の硬さ、二つ目は成膜温度である。3℃から70℃まで段階的にフィルムの成膜温度を変化させると、ある狭い領域においてラテックスフィルムが形成可能であることが分かった。また、それらのフィルムの特性を簡易的に調べると、モノマーの混合比が10 mol%異なることで、フィルムの硬さは全く異なることが明らかとなった。今回は、室温にて一軸伸長試験が可能なモノマーの混合比を選択した。 これらのフィルムのナノ構造評価を、小角X線散乱法や原子間力顕微鏡によって観察し、また力学特性を引張試験機によって評価した。結果、微粒子のガラス転移温度以上で乾燥させ、更にアニーリングを行った際に、破断ひずみ、破断応力、破断エネルギーが最大値を示した。これは、成膜時に微粒子の融着が十分に起こること、さらにアニーリングによって特性界面厚みが増大したことから、微粒子の界面から破断しにくくなったことが考えられる。以上の結果から、ラテックスフィルムは、「微粒子の融着を促進」させ、さらに「微粒子界面の相互貫入を深めた」際に、力学特性が最大値を示すことを明らかにした。
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