研究課題/領域番号 |
18J21747
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
望月 泰英 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 層状ペロブスカイト / アンチペロブスカイト / 構造歪 / 強誘電体 / ポーラーメタル |
研究実績の概要 |
ペロブスカイト物質群は、強誘電性・超伝導性・金属絶縁体転移などの興味深い物性を示し、それらは配位八面体の構造歪に由来する。面内歪印加により、バルクでは現れない様々な構造歪が得られ、それにより新しい物性が現れる。第一原理計算による新規物性探索は、学術的・産業的に重要な研究課題と言える。本研究の目的は、フォノン計算による構造探索を通じた新規物性探索である。 [1]層状ペロブスカイトLa3Ni2O7における面内歪誘起パイエルス転移の理論予測 La3Ni2O7はa-a-c0の八面体回転歪を有する。強誘電体のCa3Ti2O7が有する八面体構造歪a-a-c+を面内歪印加により実現できれば、ポーラー構造を有する珍しい金属(ポーラーメタル)が実現できると考え、理論検討を行った。その結果、圧縮面内歪印加により、金属-絶縁体転移を理論的に見出した。圧縮面内歪によるフェルミ面のネスティングにより、La3Ni2O7の金属-絶縁体転移はパイエルス転移であることが示された。 [2]アンチペロブスカイトACNi3(A = Mg, Zn, Cd)における面内歪誘起ポーラーメタル相の理論予測 中心対称性を有する金属ACNi3に、圧縮面内歪を印加すると、ポーラーメタルに構造相転移することを理論予測した。ポーラー構造の安定性の鍵を握るクーロン相互作用が自由電子によって遮蔽されるため、ポーラーメタルの実現は極めて困難とされてきた中、本研究結果は大変奇妙であった。CNi6八面体のCとNiの化学結合変化を解析することで、ポーラーな構造歪が新たな結合性軌道を形成し、ポーラーメタル相が安定化することを見出した。更に、代表的なポーラーメタルCeSiPt3においても、同様の機構であることを確認した。1965年にポーラーメタルの存在可能性が示唆されて以降、その安定化機構は不明であったが、本研究成果がその疑問を謎解く一つの断片になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画通り、フォノン計算を通じた安定構造探索の自動化プログラムを完成させ、本研究対象の物質群である層状ペロブスカイトを調査した。具体的には、La3Ni2O7における面内歪誘起金属-絶縁体転移がパイエルス機構により生じることを明らかにした。 また、層状ペロブスカイトに限定せず、未開拓なアンチペロブスカイトにも注目し、作成した安定構造探索プログラムを用いて、面内歪下でポーラーな構造を有する金属(ポーラーメタル)の理論予測に成功した。金属の自由電子によって、ポーラーな構造歪に欠かせないクーロン相互作用が遮蔽されるため、ポーラーメタルの実現は困難と言われてきた。その中、化学結合の変化を解析することにより、ポーラーメタル相の安定化機構を明らかにした。 以上のように、層状ペロブスカイトを用いたコンセプトの他に、アンチペロブスカイトの領域開拓が期待される成果を出したことから、期待以上に研究が進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、層状ペロブスカイト酸化物の安定構造探索を行う。それのみならず、アンチペロブスカイト52物質に関する系統的研究、層状アンチペロブスカイトの安定構造探索を実施する。系統的研究を進める中、研究対象とする物質群のうち、合成されていない物質に関しては、多様な多型結晶構造との全エネルギー比較、フォノン計算による熱的安定性を検討する。既に合成報告のある物質群も同様の検討を行い、未報告物質に関する理論検討結果の妥当性を吟味する。その中で、特に合成できそうな物質群、もしくは既に合成された物質群に関して、面内歪を印加することで競合相がどのように変化するか、どのような構造歪が得られるかを第一原理計算により検討する。
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