研究実績の概要 |
[1] 層状ペロブスカイト:新規量子常誘電体Li2Sr(Nb1-xTax)2O7の理論予測及び合成 八面体回転歪X3-及びX2+(a-a-c+)を有する弱強誘電体Li2SrNb2O7に、NbをTaに置換すると、強誘電体-常誘電体相転移の抑制を基底状態構造探索から理論予測し、その相転移の抑制が見事に実験により実証された。Ta置換によって相転移温度が減少し、Taの40%置換により、量子常誘電体になることが実証された。COHP解析によって、Li2SrNb2O7におけるTa置換、もしくは強誘電体相転移に伴う原子変位が、価電子帯中のNb-4dとO-2pのπ結合を強化させ、構造が安定化する機構を明らかにした。(Chem. Mater. 2020) [2] アンチペロブスカイト:新規光吸収発光半導体物質の理論予測 一般的にアンチペロブスカイトは金属で、構造歪のない構造を有するが、M3XN (M=Mg,Ca,Sr,Ba; X=P,As,Sb,Bi)の幾つかが八面体回転歪を有し、その発生機構、化学的傾向や諸物性が未解明であったため、理論検討した。その結果、八面体回転歪により、Madelungエネルギーが減少し、結晶系が安定化することを見出した。更に、M3XNの相安定性や八面体回転歪振幅がtolerance factorにより記述でき、バンドギャップは0.54~2.35 eV、電子・正孔有効質量はそれぞれ0.16-1.17・0.09-1.39、Mg系とM′(M′=Ca,Sr,Ba)系がp-pとd-p相互作用によって電子構造を形成することを明らかにした。合成未報告のMg3PN・Sr3PNは直接バンドギャップが2.35、1.74 eVで、その吸光係数がGaAs・CdTeに匹敵し、緑色・赤色の光吸収発光体への応用可能性を理論検討した。(Phys. Rev. Mater. 2020)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
La3Ni2O7において、一次元物質のみならず、擬二次元物質のパイエルス転移を示した意味で学術的意義は大きい(Phys. Rev. Materials 2, 125001, 2018)。更に、著名な物理学者P. W. Andersonらによって1965年にポーラーメタルの存在可能性が示唆されて以降、ポーラーメタルの安定化機構が明らかにされたことはなく、アンチペロブスカイトの本研究成果(Phys. Rev. Materials 2, 125004, 2018)がその謎を解く有益な手がかりを与えた。 新物質探索研究においては、層状ペロブスカイトの精緻な理論検討が、物理学的に興味深く珍しい量子常誘電体の実証・発見につながったこと(Chem. Mater. 32, 744, 2020)、未開拓なアンチペロブスカイトの系統的な理論検討により、物性を俯瞰できたこと、希少元素Inや毒性元素Asを用いず、地球上に豊富に存在する元素で構成される光吸収発光材料Mg3PN及びSr3PNの応用可能性を示したこと(Phys. Rev. Materials 4, 044601, 2020)は、物質の可能性を最大限に引き出し、材料科学の発展に貢献すると期待される結果と言える。 以上のように、層状ペロブスカイトを用いたコンセプトの他に、アンチペロブスカイトの領域開拓が期待される成果を出したことから、期待以上に研究が進展したと評価できる。
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