研究課題/領域番号 |
18J21755
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
日高 拓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ピロールイミダゾールポリアミド / DNA複製阻害 / ミトコンドリアDNA / ミトコンドリア病 |
研究実績の概要 |
本研究では、ミトコンドリア病治療薬としての応用を見据えた変異ミトコンドリアDNA選択的な複製阻害を目指している。この目的を達成するため、我々が2017年に報告したミトコンドリアDNAに塩基配列選択的に結合可能な化合物mtPIPにDNA複製阻害能を有した化合物を導入することにより、変異配列の認識能とDNA複製阻害能を併せ持つ化合物の開発に取り組んでいる。当該年度は主に(1)DNAアルキル化剤を導入したmtPIPのミトコンドリアDNA複製阻害能評価、(2)in vitro評価によるDNAアルキル化部位の同定、(3)mtPIPに導入するペプチド配列の検討を行った。 (1)融解温度(Tm)測定実験において正常配列よりも変異配列に対して高いDNA結合能を持つことが示されたmtPIPにDNAアルキル化剤を導入した。これらの化合物について細胞処理を行ったところ、高い細胞毒性が観察される一方、目的としている選択的複製阻害は見られていない。これはDNAアルキル化剤の持つ高い反応性が原因と考えられる。 (2)DNAアルキル化剤の使用にあたり、化合物によってアルキル化される部位を同定することは化合物の選択性や反応効率を評価するうえで重要である。そこでミトコンドリアDNAを模倣したテンプレートDNA(~数百bp)においてアルキル化部位を1塩基レベルで同定することができる手法を確立した。いくつかのmtPIPについてこの評価を行ったところ変異配列選択的なDNAアルキル化が観察され、本手法の有効性が示唆されている。 (3)ミトコンドリア透過ペプチドはmtPIPのミトコンドリア集積性を担う重要な部位であり、これを最適化するため異なるペプチド配列を有するmtPIP 4種類について細胞評価を行った。その結果一部のペプチドが従来よりも優れた転写抑制能を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的としていた細胞内における変異ミトコンドリアDNA選択的な複製阻害はまだ達成されていないが、今回確立したアルキル化部位を1塩基レベルで同定する手法は現在の化合物が持つ選択性やアルキル化能に関して詳細な情報を与える。そのため改善すべき点に関する指針を得られると考えられ、今後の化合物開発を大きく推進すると期待される。またこの評価を通じて同定された変異配列選択的なDNAアルキル化能を持つ化合物をベースとして今後の構造最適化を行うことができる。 化合物の構造最適化について、ペプチド配列やアルキル化剤の構造については既に検討を始めており、ミトコンドリア集積性の向上や細胞毒性の低減が見られた。先に同定された化合物にこれらの最適化を行い機能改善を施すことで、細胞内における変異ミトコンドリアDNA選択的な複製阻害を実現できるものと考える。 以上の内容を踏まえ、当該研究課題は順調に進行しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
導入する複製阻害剤およびmtPIPの化学構造について最適化を進め、培養細胞内での変異型mtDNA選択的な複製阻害を実現する。現在用いているアルキル化剤は反応性が高すぎると考えられるため、より反応性を低くするような修飾を施したり、他のDNA複製阻害剤を導入したりことで、mtPIPの選択的DNA結合能を損なわない反応性へと最適化を行う。またミトコンドリア集積性やDNA結合能を向上させるため、ミトコンドリア透過ペプチドの配列やmtPIPの構造についても更なる検討を行う。 構造最適化と並行して定量PCR法により合成した化合物が変異型mtDNA選択的な複製阻害能を有するか細胞評価を行い、結果に応じて他の変異配列を標的にすることも視野に入れる。以上の研究で変異配列選択的なDNA複製阻害能を示すmtPIPが得られた場合、次世代シーケンサを用いたミトコンドリアDNA上でのmtPIP結合部位の同定を検討している。
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