本研究では、ミトコンドリア病治療薬としての応用を見据えた変異ミトコンドリアDNA選択的な複製阻害を目指している。これを達成するため、塩基配列選択的DNA結合能を有するピロールイミダゾールポリアミド(PIP)にミトコンドリア透過ペプチドを導入したmtPIPに、DNAアルキル化剤であるクロランブシル (Chb)を導入した化合物”mtPIP-Chb”を開発した。 HeLa S3細胞に含まれる点変異を標的とし、キャピラリー電気泳動を用いたin vitroアルキル化評価を行った。クロランブシルが標的アデニンに接近するよう設計したところ、変異アデニンが選択的にアルキル化された。またHeLa S3細胞を20日間処理し正常型に対する変異型ミトコンドリアDNAの相対量を算出したところ、未処理サンプルに対して250 nMで約40%の減少が見られた。以上の結果は国際学術誌に投稿し、リビジョン中である。 ミトコンドリア病治療には核DNAも重要な標的である。そこでPIPの細胞取込を促進するトリアルギニンベクターを同定した。SOX2阻害PIP(SOX2i)にこのベクターを導入したSOX2i-R3を合成し、フローサイトメトリーによりHeLa細胞への取り込み効率を評価したところ、SOX2i-R3はSOX2iよりも効率よく取り込まれ、さらに蛍光観察では核への顕著な蓄積が認められた。またiPS細胞にてSOX2のRNA発現を評価したところ、SOX2iは2 uMで約60%抑制した一方、SOX2i-R3では100 nMで同等の転写抑制が見られ、1 uM以上では発現がほぼ完全に阻害された。これはトリアルギニンベクターの導入がPIPの機能強化にとても有効であることを示唆している。以上の結果は英国の学術誌であるChemical Communicationに掲載された。
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