研究課題/領域番号 |
18J21771
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福山 鴻 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | "Missing" nitrogen / スティショバイト / ブリッジマナイト / ペリクレース / 高温高圧実験 / 下部マントル / 酸化還元制御 / 大気-マントル進化過程 |
研究実績の概要 |
下部マントルの主要鉱物であるブリッジマナイト (MgSiO3)と下部マントルで安定に存在しうるスティショバイト (SiO2)への窒素取り込み量の実験的な比較を行った。実験は全て愛媛大学地球深部ダイナミクスセンターで行った。下部マントル温度圧力条件下で酸化還元状態をコントロールする実験は、世界的に例がなかったが、本研究によって達成することができたと考えている。急冷回収試料中の微量な窒素検出には東京大学大気海洋研究所に設置されているNanoSIMSを使用した。結果として、ブリッジマナイトよりもスティショバイトの方がはるかに多くの窒素を取り込みうることが本研究から分かった。加えて、スティショバイトにおいては標準試料を用いることによって、窒素取り込み量の定量を行った。標準試料は、国立研究開発法人物質・材料研究機構で石英ガラスにN+イオンを打ち込むことによって作成した。一連の実験や分析から、stishoviteには最大で400 ppm以上窒素が取り込まれることが分かった。このようなケイ酸塩鉱物に含まれる微量な窒素の定量への取り組みは国内で初めてであり、順調に進んでいると自己評価している。 上記の成果は多数の国内の学会で成果発表を行った。加えて、オーストラリアで8月に開かれた22nd IMA meetingとモスクワで開かれたMagmatism of the Earth and related strategic metal deposits では、申請者が英語で成果報告を行った。 現在、成果をまとめるべく論文を執筆中である。 他に、茨城県東海村にあるJ-PARCでの実験に参加しており、硫黄を含んだ鉄への水素の取り込みに関する研究、MnDxの高圧下における磁気構造と磁気転移関する研究、鉄の磁気モーメントに関する研究の成果が上がりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、ケイ酸塩メルトと鉄メルト間における窒素同位体分別過程を実験的に解明することが目的であった。しかし、実験研究をする中で、地球深部での挙動が不明であり地球化学的に極めて重要な窒素が、高圧鉱物の一つであるスティショバイト(SiO2)に多く取り込まれうることを偶然にも見いだすことができた。 このことを受けて、鉱物中の窒素濃度を SIMS(二次イオン質量分析計)を用いて定量分析することにした。分析には既知濃度の窒素 を含んだ標準試料の作成が必要であたため、物質材料研究機構の研究者の協力を仰ぎ、鉱物基板への窒素イオンを打ち込みをすることによって、標準試料の作製を行った。 上記のような一連の高温高圧実験とイオン注入で作製した標準試料によるSIMS分析によって、スティショバイトに取り込まれる窒素濃度が他の下部マントル鉱物と比較してはるかに高いことが明らかになりつつある。 これらの研究成果は当初から期待していた以上の進展で、地球の大気進化に大きな制限条件を加えうるものである。今年度は得られた成果を原著論文として出版していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
下部マントルの主要鉱物であるpericlaseにbridgmaniteよりもはるかに多くの窒素が多く取り込まれうることが本研究から示唆された。もし、periclaseに窒素が多く取り込まれうるのであれば、マグマオーシャンの固化過程で多くの窒素が下部マントルに保持された可能性がある。現在この結果を踏まえ、試験的に愛媛大学地球深部ダイナミクスセンターで実験に取り組んでいる。 既にペリクレース基板に窒素を打ち込むことによる標準試料作製を物質材料研究機構試みたが、ペリクレース基板の含水化が著しいことが分かっている。このような基板の含水化は分析結果へ誤差を与える可能性があるので、今後はペリクレース基板の含水化を防ぐ工夫が必要である。
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