研究課題/領域番号 |
18J21800
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河合 翼 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 側根 / 変異体 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
圧縮土壌では、硬盤層の機械的抵抗による親根の深根生長の抑制が作物収量低下の一因となっている。そうした環境下で、硬盤層の上層で側根を補償的に発達させることが地上部の生育維持に貢献する。イネにはメリステムサイズの大きなL型側根と、小さなS型側根が存在するが、前者のみが長く伸長して高次の側根を発生させるため、親根の伸長阻害に応答した側根メリステムを大きくする能力を高め、側根の補償生長性を強化することで、圧縮土壌耐性をもつイネ科作物系統を作出できると考えられる。 本研究では、非ストレス下でより多くのL型側根を形成するT12-3, T12-36変異体の原因遺伝子の機能解析、S・L型側根原基における遺伝子発現ネットワークの解明により、側根メリステムサイズの制御機構を明らかにすることを目的とする。昨年度、レーザーマイクロダイセクション法によってサンプリングしたS・L型側根原基からRNAを抽出し、cDNAライブラリの作成および次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行い、S・L型側根原基間で有意に発現が異なる遺伝子を同定することに成功した。現在、RNA-seq解析により同定された転写因子について、形質転換体の作出および表現型解析によって、側根メリステムサイズ制御における機能の解明を進めている。また、側根の補償生長の品種間差および圧縮土壌耐性における機能の解明に向けて、西オーストラリア大学にてSemi-hydroponic systemによるイネ根系形態解析の予備試験を行った。Semi-hydroponic systemによる大型根系の効率的な形態解析がイネにも適用可能であること、生育のより早い段階での根端切除によって側根の補償生長をより強く誘導できることが確認された。今後、イネ品種間での根系形態と側根の補償生長性を比較し、選抜された品種に関して圧縮土壌耐性レベルの評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本年度は側根メリステムサイズ制御機構の解明に向けて、S・L型側根原基におけるRNA-seq解析を行い、メリステムサイズ制御に関わる候補遺伝子を同定することができた。今後、形質転換体の作出と解析によってこれら候補遺伝子のメリステムサイズ制御における機能が解明されると期待される。また、非ストレス下でより多くのL型側根を形成するT12-3, T12-36変異体の原因遺伝子の発現解析やオーキシン応答部位の解析のための形質転換体の作出も完了しており、今後は側根原基における原因遺伝子の発現パターンや変異体でのオーキシン局在部位の変化が明らかになると期待される。オーストラリアへのイネ種子の輸出および検疫も完了し、またSemi-hydroponic systemによるイネ根系形態解析の予備試験から補償生長を促すのに適した根端切除方法を見つけ出すことができたことから、側根の補償生長の品種間差および圧縮土壌耐性における機能の解明に向けた準備は整っていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行ったS・L型側根原基におけるRNA-seq解析により同定されたメリステムサイズ制御に関わる候補遺伝子に関して、形質転換体の作出とそれらの解析によって候補遺伝子のメリステムサイズ制御における機能を解析する予定である。また、非ストレス下でより多くのL型側根を形成するT12-3, T12-36変異体の原因遺伝子の発現解析やオーキシン応答部位の解析のために作出した形質転換体を用いて、側根原基における原因遺伝子の発現パターンや変異体でのオーキシン局在部位の変化を解析する予定である。オーキシン局在部位の解析では、オーキシン応答プロモーターDR5-Venus蛍光タンパク質を導入した形質転換体を用いた解析とともに、放射性同位体で標識化したオーキシンや質量分析イメージング技術によるオーキシン分布の可視化も計画している。また、西オーストラリア大学における側根の補償生長の品種間差および圧縮土壌耐性における機能の解明に向けた試験も予定通り進んでおり、予備試験の結果をもとに引き続き栽培試験を行う予定である。
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