本年度は、昨年度合成した高い円偏光発光非対称因子を示す8の字型ヘリセン二量体に関して、円偏光発光非対称因子が計算値と比較して小さいという問題の解明に取り組んだ。また、過去3年間の研究に対して考察を深め、学術誌への論文投稿を行った。 昨年度合成したフェニレン架橋8の字型ヘリセン二量体の円偏光発光非対称因子は一般的な有機小分子と比較すると一桁程度大きい値を示していた。一方でTD-DFT法を用いた計算では非常に大きく、実測値との乖離があった。この理由を明らかにすることでより高い円偏光発光非対称因子を持つ分子設計指針が得られると考え、取り組んだ。まず計算による安定構造が、実際の構造と異なっていると想定し、構造安定化計算の初期値を変えて計算をし直した。しかし、別の安定構造は得られなかった。さらに、準安定構造由来の発光が見られると考え、低温での円偏光発光を測定したが、円偏光発光非対称因子に大きな違いは見られなかった。異なる計算手法にてTD-DFT法を試したが、同様に実測値との乖離が生じた。架橋をフェニレンからアセチレンに変更した化合物を合成したところ、フェニレン架橋分子と同様に高い円偏光発光非対称因子を示したが、同様に計算では実測値よりも高い円偏光発光非対称因子が算出された。以上より、実測と計算の乖離の原因を明らかにできなかった。 過去に行った、優れた円偏光発光を示す[7]ヘリセン誘導体と、フェニレン架橋8の字型ヘリセン二量体に関して、遷移双極子モーメント密度マッピング解析を行った。これにより、円偏光発光非対称因子に関わる遷移電気・磁気双極子モーメントが分子骨格のどの部分に由来するかを明らかにできた。また、ドナー・アクセプター型強発光性[5]ヘリセン誘導体の、円偏光発光の溶媒依存性を明らかにした。以上の結果をまとめ、学会誌へと発表した。
|