研究課題
動物はある先行刺激に付随して報酬を与えられると、次第に先行刺激から報酬の到来を予測できるようになる。こうした報酬予測学習は、先行刺激と報酬が秒単位で時間的に近接する場合には短時間で成立し、こうした学習の神経基盤として、線条体のモノアミン依存的な樹状突起スパイン可塑性が調べられてきた。しかし、自然界では先行刺激から遅延して到来する報酬の予測も学習できる必要がある。遅延報酬学習への関与が示唆される前頭前皮質(PFC)は、作業記憶の中核であり、先行刺激情報を持続発火により保持し、遅延報酬信号と連合出来る可能性がある。従ってPFC樹状突起スパインが遅延報酬予測を学習し、遅延報酬獲得行動を引き起こすという仮説を立てた。興味深いことに、PFCスパインはうつ病で減少し、即効性抗うつ薬として注目されるケタミンの投与により増大する。上記モデルに基づけば、うつ病の意欲低下は、遅延報酬を記憶するPFCのスパインの障害として理解し得る。まず、PFC樹状突起スパイン可塑性の特性を調べるため、脳急性スライス標本においてケイジド・グルタミン酸の2光子刺激を用いて調査を進めた。その結果、シナプスグルタミン酸入力と細胞発火の同期によりスパイン可塑性が生じる海馬とは異なり、PFCではこれらの刺激に加え、モノアミンの一つであるノルアドレナリン投与等が可塑性誘発に必要であることが分かった。更に、こうした可塑性は、うつ病モデルとして知られる社会的敗北ストレスにより減少するが、ケタミン投与により回復することが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
意欲行動におけるモノアミン神経活動を調査するため、神経活動をファイバーフォトメトリー法によりモニターしながら、光遺伝学により精細に操作できる系を開発した。この系を応用し、ドーパミン神経活動の一過性の低下が、報酬予測の弁別学習に必要であることを発見した。弁別学習の細胞・シナプス基盤として、側坐核においてドーパミン濃度一過性低下によりD2受容体発現有棘投射神経の樹状突起スパイン可塑性が引き起こされることが所属研究室の研究員により示された。更に統合失調症モデルとして知られるメタンフェタミンの反復投与により弁別学習が障害されるが、抗精神病薬として用いられるD2阻害薬によってレスキューできることを見出し、統合失調症および抗精神病薬作用の神経基盤について理解を進めた。上述の研究をまとめた論文はNature誌に掲載された。以上のように、当初の計画から発展させ研究を進めている。
遅延報酬課題における、モノアミン信号、PFCスパイン可塑性の因果的役割を、それぞれ、光遺伝学的神経活動操作、および活性化スパインを選択的に標識し、光で消去できるASプローブの活用により、調査する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Nature
巻: 579 ページ: 555-560
10.1038/s41586-020-2115-1
bioRxiv
巻: N/A ページ: N/A
10.1101/641365