研究課題
R1年度では、昨年度から行っていた「in vitro実験系におけるTAT膜透過活性の評価」の続きと「リポソームにおけるプロトン駆動力の形成」および構築した条件に基づく「精製因子によるTAT経路の再構成」に着手した。従来の報告通り、TatABCを過剰発現させた株の反転膜小胞(INV)に対し、試験管内でRIラベル合成したSufIの膜透過が観察されたが、このINVではTatABCのみならずMPIase発現量の増加も確認された。このことから、MPIaseは何らかの形でTAT反応特異的に働くと考えられる。さらにMPIase枯渇条件下におけるSufIの膜透過を観察した。このINVはTatABC過剰発現条件で調製しているにも拘らず、MPIase枯渇時にはSufIは膜透過しなかった。これらの結果から、TAT膜透過反応にはTatABCのみならずMPIaseも必須であることが証明された。TAT経路ではプロトンの濃度勾配をエネルギーとして膜透過反応が進行することから、試験管内にこの反応を再現するためにはプロテオリポソーム内外に人為的にプロトン駆動力を形成させる必要がある。今回は熱に安定な好熱性細菌由来のF0F1-ATPaseを用いることで、安定的にプロトン駆動力を形成させることが可能になった。それぞれ精製したMPIase、TatA、B、CおよびF0F1-ATPaseをプロテオリポソームに組み込み、試験管内で発現させたSufIの膜透過活性を観察した。プロトン駆動力を形成させた条件下において、TatABC含有/MPIase非含有プロテオリポソームに対してSufIは全く膜透過しなかったが、一方でTatABC/MPIaseすべてを含むプロテオリポソーム存在下ではSufIの膜透過が観察された。精製因子のみによるTAT膜透過反応の再構成系において活性が確認されたのは本研究が世界で初めてである。
2: おおむね順調に進展している
2年目であるR1年度では「研究実施計画」に基づき「in vitro実験系におけるTAT膜透過活性の評価」の続きと「リポソームにおけるプロトン駆動力の形成」および構築した条件に基づく「精製因子によるTAT経路の再構成」に着手した。反転膜小胞(INV)を用いた実験において、TatABCの過剰発現でMPIaseも発現誘導されることが示唆された。一般的な膜透過路トランスロコンであるSecYEG等の膜タンパク質を過剰発現させてもMPIaseの発現誘導は起こらなかったことから、MPIaseはTAT膜透過反応により特異的に働いていると考えられる。「プロトン駆動力の形成」については、昨年度検討していた方法とは異なる、好熱性細菌由来のF0F1-ATPaseを組み込む方法を採用した。熱に安定であるのは勿論、複雑な複合体ではあるがHisタグにより比較的簡易に精製できるためである。in vitro系において基質タンパク質SufIの膜透過活性が高かったTatABC過剰発現株のINVを可溶化・再構成したプロテオリポソームでも、SufIの膜透過活性を検出することができた。この結果を基に、それぞれ精製したMPIase、TatA、TatB、TatCおよびF0F1-ATPaseをプロテオリポソームに組み込み、SufIの膜透過活性を調べた。どちらのプロテオリポソームにおいてもTatABCが過剰量存在しているにもかかわらず、MPIase非存在下ではSufIは全く膜透過しなかった一方、MPIase存在下ではSufIの膜透過が観察された。さらにプロテオリポソームに添加するMPIase量を増加させたところ、SufIの膜透過活性はより上昇した。この結果はTAT膜透過反応のMPIase依存性をより証明するものである。これらのことから、おおよそ当初の計画通りに本研究課題が進捗していると評価する。
まず昨年度に引き続き「精製因子によるTAT経路の再構成」を完了させる。精製因子のみで構築したプロテオリポソームによる膜透過活性は確認されたものの、TatABC過剰発現株から調製したINVを用いた実験系で得られた活性と比較するとまだ十分量ではないことから、来年度では再構成系におけるSufIの膜透過活性の増加を試みる。十分量の膜透過活性が確認されたTatABC過剰発現株のINVにおける各Tat因子量を概算すると、今回の再構成系における因子量はまだ足りないと推測される。また今回の再構成系ではTatA、TatB、TatCを1:1:1の等量で添加しているが、生体内においてTatAはTatBやTatCに対し非常に多く存在していることが分かっている。これらのことから、Tat因子量を今以上に増加させることで、よりINVにおける膜透過活性に近い活性を得ることができると考えられる。さらに今回基質として用いているSufIは過剰発現すると膜透過反応が飽和することも報告されていることから、アッセイ系で合成させるSufI量の調製も必要となると推測され、今後の課題となっている。さらに完成した再構成系において、TatABC変異体やMPIase誘導体を用いて基質の膜透過を観察することにより、今以上に詳細なTAT膜透過反応の分子機構を解明できると推測される。
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Bio-protocol
巻: 10 ページ: -
10.21769/BioProtoc.3626
The Journal of Biological Chemistry
巻: 294 ページ: 18898-18908
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