研究課題/領域番号 |
18J21880
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
太田 考陽 静岡大学, 自然科学系教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 肝臓 / 形態進化 / 進化発生学 / Evo-Devo / 全ゲノム重複 / Jag1 / 分子進化 / 比較ゲノム |
研究実績の概要 |
肝臓では脊椎動物の系統進化の中で、真骨魚類特異的に形態進化が起きている。哺乳類を含む四肢動物をはじめ、原始的な種も含め多くの脊椎動物の肝臓では共通して肝内胆管(以後、胆管)は門脈に並走した構造をとるが、真骨魚類の肝臓では胆管は門脈と並走していない独自の構造を形成する。本研究では、この新規に獲得された真骨魚類の肝臓構造に注目し、構造の違いが生む機能差や、その形態の違いを生む分子機構を解明し、脊椎動物における肝臓の機能・形態の進化機序の理解を目指す。 本年度では、まず肝臓構造の違いが生ずる過程を理解するため、脊椎動物代表種の肝発生を比較発生学的に解析した。その結果、真骨魚類の肝発生では、哺乳類や鳥類に見られる門脈周囲特異的な胆管前駆体は形成されず、血管とは独立に肝臓全体にductuleがまず発生する独自の胆管形成機構を獲得していることを明らかにした。さらに、哺乳類や鳥類の肝臓では胆管誘導因子Jag1の発現は門脈周囲に限定されるが、真骨魚類の肝臓では全ゲノム重複の結果生じたjag1a、1b遺伝子両方の発現が肝臓全体に確認されたため、胆管形成の分子機構そのものも異なることが示された。この成果は、第25回肝細胞研究会で学会発表を行い、優秀ポスター賞を授与された。 次に、胆管発生の違いを生む分子機構の解明に向け、胆管誘導因子Jag1の真骨魚類特異的全ゲノム重複による重複に注目した分子系統解析や、Jag1の発現パターンを変化させた原因となる領域の探索を比較ゲノム解析により行った。その結果、重複後のJag1は転座や欠失、さらなる重複などが複雑に起きていることが明らかとなった。さらに、Jag1の発現制御を担う遺伝子上流領域の比較ゲノム解析では、門脈に沿った胆管形成誘導を担う可能性のある特異配列を同定した。この成果は日本進化学会第20回大会で発表を行い、最優秀ポスター発表賞を授与された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓構造の違いが生ずる過程を理解するため、脊椎動物代表種の肝発生を比較発生学的に解析し、遺伝子発現の差も含め、発生様式に大きな違いが生じていることが分かった。その一方で、成体での肝臓構造の違いによる機能差を比較するために行っている各種肝臓機能マーカーの遺伝子発現比較解析は、一部現在進行中であり本年度では完了しなかったため、次年度でも引き続き行っていく。 次に、胆管発生の違いを生む分子機構の解明に向けては、胆管誘導因子Jag1の発現パターンの違いを発見し、さらに発現制御を担う遺伝子上流領域の比較ゲノム解析では、門脈に沿った胆管形成誘導を担う可能性のある特異配列を同定することができ、目標は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
成体肝臓の機能差を比較するための遺伝子発現解析が完了していないため、引き続き行っていく。 胆管発生の違いを生む分子機構の解明に向け行った比較ゲノム解析により発見された門脈に沿った胆管形成誘導を担う可能性のある特異配列の機能解析を進めていく。研究計画のゼブラフィッシュを用いたゲノム編集による方法に加え、状況によってはマウスを用いたゲノム編集による配列機能解析も視野に入れて進めていく。
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