研究課題/領域番号 |
18J21882
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村木 数鷹 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | マキァヴェッリ / 政治思想 / 歴史叙述 / ルネサンス / 人文主義 / フィレンツェ |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は、大別して以下の4点に纏められる。 第一に、自身にとって初めての論文となる「マキァヴェッリの歴史叙述――『フィレンツェ史』における対立の克服を巡る言葉と暴力――」『国家学会雑誌』第132巻 第9・10号, 2019年, pp.859-929の公刊を果たした。読者から有益なフィードバックを数多く受け取ると共に、今後の研究活動にとって欠かせない人的ネットワークを形成することにも繋がった。 第二に、2019年10月の日本政治学会において、「嘘」を主題としたシンポジウムへの招待を受け、「マキァヴェッリの「嘘」――歴史叙述における「真実」――」というタイトルのもと、口頭での報告を行なった。昨今の政治状況も意識しながら、広く政治学一般に携わる研究者に対して、自らの研究成果の一部を提示する貴重な機会となった。 第三に、2019年12月のイタリア文化・言語研究会において、他の若手研究者とも協力しながら「マキァヴェッリ関連ミニ・シンポジウム」との企画を立ち上げ、そこで「歴史家マキァヴェッリの画期性」と題した研究発表を行なった。この場を通じて、歴史学分野を始めとしたイタリア関係の研究者との間にも新たに人脈を広げることができた。自身の研究は、イタリア研究としての側面も備えているため、多角的に研究を進める上でも大きな進展となった。 最後に、2019年11月には、プラハとフィレンツェで開催されたマキァヴェッリを主題とした国際研究会に参加して、各国のマキァヴェッリ研究者との間で意見交換の場を持つことができた。とりわけ、マキァヴェッリ研究の現状にあって自身が最も注目していたローマ第3大学のガブリエーレ・ペドゥッラ教授とは大いに親交を深めることができ、将来的なローマでの在外研究に対する見通しを得ることにも繋がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、論文や口頭での報告といった形を通じて、これまでの自身の研究成果を発表する機会を数多く持つことができたことが最も重要な進捗である。これと同時に、海外の研究会に参加することを通じて、最先端の国際的な研究状況を間近に見聞できたことも、研究方針の検討や新たな知見の獲得という点において大きな成果であった。 こうした活動を背景として、自身の研究にも一定の進捗が見られた。特筆すべきは、海外の研究者との交流を一つの契機として、ローマ・サピエンツァ大学のガエターノ・レッティエーリ教授の研究の周囲に広がっている最新の研究動向へのアクセスが可能になったことである。彼は、キリスト教史に関する専門的な知見を活用しながら、マキァヴェッリが教皇庁と関係を深めていった1520年以降の時期に焦点を当てた斬新な研究を次々と発表している。マキァヴェッリの晩年の時期における政治的・知的環境についての理解が深まったことは、『君主論』(1513年)や『ディスコルシ』(1517年)といった有名な著作ではなく、それに続く『フィレンツェ史』(1525年)を主たる分析対象とする自身の研究にとっては、不可欠な進展であった。 また、マキァヴェッリの「都市内部での対立をポジティヴに評価する」という思想史上においても画期的な発想の着想源について分析する過程で、マキァヴェッリの制度改革構想についても多くの学びを得た。とりわけ、彼の制度構想の特徴がフィレンツェの制度史に対する理解はもちろんのこと、護民官や独裁官といった古代ローマの制度についての斬新な解釈に依拠していることの発見は重要な成果であった。このことは、グィッチャルディーニとの比較を通じて、より浮き彫りとなった。合わせて、リッカルド・フビーニの研究等を通じて、マキァヴェッリに先行する人文主義の歴史叙述の思想的特徴の概要を把握できたことも、今年度の貴重な進捗の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
2019年11月にプラハとフィレンツェで開催された研究会に参加して、海外のマキァヴェッリ研究者と意見交換を行なう機会を得た結果、改めて自身の『フィレンツェ史』に軸足を置いた研究方針が有効なものであることを確認することができた。従って、引き続きマキァヴェッリの歴史意識と政治思想との関係という基本的な関心に沿って研究を進めていく予定である。また、これと同時に、本場イタリアにおける研究水準の高さを実感することもできたため、2020年の夏頃からローマでの指導委託の形式をとった本格的な在外研究を開始する予定である(新型コロナウィルス感染症の影響により、中止を余儀なくされた)。 上述した在外研究に合わせて、海外での研究発表も可能な範囲で進めていく予定である。現時点で、2020年12月にローマで開催されるThe International Machiavelli Societyの第1回設立記念シンポジウムを通じて、口頭での報告を行なうことが既に決定している(当研究会も、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて、翌年への延期が決まっている)。 また、これまで以上にイタリアにおける研究状況にも目を配りながら、マキァヴェッリの一次文献についても、特に晩年のテクストに焦点を当てながら、その検討範囲を広げていく予定である。制度改革に関係する文書はもちろん、必要に応じて細かな文学作品についても分析を進めていきたい。 最後に、日本では未だに余り広く知られていない、或いは上手く整理されていないイタリアでのマキァヴェッリ研究の最新動向を批判的に紹介するような活動も、合わせて進めていきたいと考えている。
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