研究課題/領域番号 |
18J21908
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧田 龍幸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 有機半導体 / センサー / 有機電界効果トランジスタ |
研究実績の概要 |
様々なモノをインターネットに繋げることで情報収集およびフィードバックを行うInternet of Things (IoT) 社会に向けて、数年後には毎年一兆個のセンサー需要が見込まれており、持続可能性と利便性とが両立するセンシング技術の開発が重要である。その技術の基盤となる半導体材料として近年、溶媒に可溶であることから簡便・低コスト・低環境負荷でのデバイス作製を実現可能な有機半導体が注目を集めている。本研究では、溶液からの結晶成長時に低分子有機半導体とポリマーが相分離することで自発形成される、検出対象物に対する選択性を示す極薄ポリマー層/高移動度を示す有機半導体単分子層単結晶層のハイブリッド薄膜を利用し、液中で動作するセンシングデバイスを実現する。検出対象物がキャリア伝導領域に接近する厚さ数分子層の有機半導体単結晶薄膜を利用した高感度センシングデバイス作製手法の確立およびセンシングのメカニズム解明、さらに選択性を有するポリマーと組み合わせた種々のバイオセンサーおよびケミカルセンサーの作製に取り組む。 この一年では、まず、検出対象物の吸着時に予想される数十mV程度の微小な電気信号を高感度にセンシングするために、低電圧で駆動可能な有機電界効果トランジスタ(OFET)の作製手法、および液中でのセンシングを行うための電極保護層形成手法の検討を行った。これにより、高感度センシングデバイスの実現に向けた基盤技術を確立した。さらに、塗布法による半導体単結晶膜の製膜に伴うデバイス作製上の制約を低減させるため、有機半導体単結晶薄膜の別基板への転写手法を開発した。その結果、半導体塗布を行う下地の電極パターニングに伴う凹凸や表面状態の影響をほとんど受けることなく、センシングに適した良好な単結晶薄膜を得ることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高感度センシングを実現するための低電圧駆動OFETの作製の検討については、有機無機複合絶縁膜を利用することで、1.5 Vという低電圧で駆動するOFETの実現に成功した。次に、選択性を有するポリマーの初期検討として、血中でのがん細胞選択的接着性を示す絶縁性ポリマーを半導体上に製膜する手法を確立した。さらに、水溶液中で検出実験を行うための電極保護層の形成にも成功した。以上の結果、液中でのセンシングデバイス検討のための基盤技術の確立に成功し、当初の目標に向けて前進しているといえる。一方で、このようなデバイスを作製するうえで、半導体膜塗布時に下地の電極による凹凸等の影響によって均一な単結晶薄膜を製膜することが難しく、歩留まりに課題があった。そこで次に、あらかじめ別基板に製膜した単結晶薄膜を転写する手法について検討を行った。 塗布基板として、表面を超親水性化したガラス基板を用い、その上に有機半導体単結晶薄膜を塗布法によって製膜した。得られた膜を水に浸漬させたところ、表面が高撥水性である半導体膜と超親水性である基板の水との親和性の差が駆動力となり界面に水が浸入し、半導体膜が剥離した。透過型電子顕微鏡によって結晶性を確認したところ、半導体膜が元の単結晶性を維持していることが確認できた。同様の原理を用いることで、半導体膜を別基板に転写することに成功したため、OFETを作製したところ、元の単結晶膜の性能に匹敵する高い移動度を示した。これらの結果は、半導体下層の電極による凹凸等の影響を受けることなく高性能な単結晶薄膜を形成し、高感度センシングデバイスの実現が期待できるのみならず、通常は上に直接塗布を行うことが難しいさまざまな下地上にも半導体単結晶薄膜を形成することが可能となり、広く有機半導体デバイスの研究を促進するものである。よって本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は前年度までに得られた結果を基軸とし、検出対象物が絶縁性ポリマー上に対象物が吸着した際の有機半導体単結晶薄膜中のキャリア伝導への影響の検証および単分子層単結晶を用いたデバイス作製の検討を行う。 これを達成するため、まず、これまでに得られた知見をもとに中期的な目標であるがん細胞の検出実験を行い、癌細胞が吸着した際の単結晶薄膜中のキャリア伝導の変調について検討を行う。昨年度の検討で作製手法を確立した低電圧駆動デバイスおよび転写手法を組み合わせ、厚さ数分子層からなる半導体単結晶薄膜を用いたセンシングデバイスを作製する。絶縁性ポリマーとして、血中においてがん細胞に対して選択的接着性を示すポリマーを半導体単結晶膜上に製膜する。作製したOFETを用い、がん細胞の検出実験を行う。原子間力顕微鏡(AFM)によって絶縁性ポリマー膜の厚みおよび構造を観察し、電気特性の測定結果と統合することで半導体単結晶膜中のキャリア伝導に与えるがん細胞表面電位の効果を明らかにする。これをもとに、より高効率での検出に向けた絶縁性ポリマーの設計指針をたて、ポリマー材料の選択および合成へのフィードバックを行う。一方で、キャリア伝導層である有機半導体単結晶膜について、単分子層の単結晶を用いたセンシングデバイス作製の検討を行う。単分子層単結晶膜は検出対象物とキャリア伝導界面が最も接近するため、高感度での検出が期待できるが、電極作製時の熱的なダメージによってデバイスとして動作しなくなるという課題がある。最終的な目標である高感度センシングデバイス実現に向けて単分子層の利用は重要であるため、単分子層膜にダメージを与えずにデバイスを作製する手法を検討する。さらに、以上の結果をもとに、カリウムイオンのような対象物について選択性を有するポリマーを用いた検討も開始する予定である。
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