研究課題/領域番号 |
18J21921
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
清水 康平 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 高感度紫外光電子分光 / 有機EL素子 / 有機半導体 / ペロブスカイト太陽電池 / 状態密度 / キャリア注入 / キャリア生成層 |
研究実績の概要 |
本研究は、仮想的な状態密度分布に依拠した現在のデバイス動作モデルから脱却し、実測の状態密度に基づいて有機エレクトロニクス素子の特性を説明できるモデルを構築することを目的とする。そのために(1)高感度紫外光電子分光(UPS)を用いて、従来の検知限界より3桁以上小さい微小な状態密度を直接観測し、(2)さらに同一環境で同一試料に対して電気測定を行い、状態密度と素子特性の関係を明確かつ定量的に解明することを目指している。 本年度は有機EL素子のキャリア注入モデルの議論のため、キャリア注入層として広く用いられるHAT-CN/α-NPDキャリア生成界面に対して高感度UPSを用いた電子構造観測を行った結果、従来のUPS測定装置では観測できなかったHAT-CN層の微少な負イオンの準位の観測に成功した。観測された負イオン準位のDetachment energyは5.9 eVで、代表的な空準位観察手法である逆光電子分光による電子親和力の値5.4 eVとは大きく異なることが明らかになった。これらの実測電子構造に基づき、キャリア生成界面の電荷発生およびホール輸送層へのキャリア注入メカニズムを提案し、第79回応用物理学会秋季学術講演会にて発表した。 また、アウクスブルク大学のBruetting教授の協力のもとUPS測定チャンバーで作製予定の構造の素子を作成して電気測定を行い、ホール注入層およびホール輸送層の材料や膜厚等の最適化を進め、素子性能の議論に重要となる温度依存性を含む一連の電気特性のデータを得た。 さらに、もう一つの研究対象である太陽電池についても、ワイツマン科学研究所のDavid Cahen教授との共同研究が実現し、高効率を示すペロブスカイト型太陽電池材料の微小状態密度観測を行うことができた。性能および組成の変化に伴う微少なギャップ内準位の違いが明らかになり、現在論文投稿の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の欄に記載した通り、目的の(1)の面では有機EL素子のほか、2年目に実施予定であった太陽電池についても高感度UPSによる微小状態密度観測を行うことができたため、計画よりも進展があったといえる。しかしながら目的の(2)に示す「同一環境下での同一試料に対する電子分光と電気測定」については足踏みとなる点が多く、方針を転換せざるを得なかった。 当初計画では、真空一貫でUPS測定試料を素子化して電気測定まで行うことができるよう蒸着マスク導入機構および電気測定系を新設し、その中核として、有機EL素子のキャリア注入モデルなど素子性能の議論においては温度依存性が決定的に重要であることから試料を冷却・加熱するための液体窒素導入機構とヒーターを組み込む予定であった。しかし、UPS測定システムにおいて試料固定部品と試料との間に生じる空隙によって熱伝導性が大幅に低下し、実用的な時間スケールでは試料を冷却できないことが明らかになった。 この解決にはマニピュレーター周辺部品等UPS測定系の基幹部分の変更が必要となり、測定の信頼性や過去に測定されたデータとの整合性に影響を与えかねないため、より現実的な前段階としてUPS測定後の試料を別チャンバーへ移送して電気測定を行う非同一環境下同一試料測定の実現を模索することにした。非同一環境下であっても移送中に十分な真空度を保持できれば、移送前後に測定されるデータの相関について信頼性を確保できると考えている。 以上の(1)と(2)の進捗を総合して当該区分の判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、測定の信頼性に影響しないよう万全を期した上で新たなUPS測定系部品を開発するなど同一環境下測定への手段を検討する一方で、より実際的な戦略としてUPS測定後の試料を別チャンバーに移送して電気測定を行う非同一環境下・同一試料測定の実現に向けた方策を展開する。具体的には、 (1)UPS測定試料を可搬式の真空容器へ退避させ、真空を保ったまま別チャンバーへ移動させるための容器および真空系を設計し、試料移送のプロセスを確立する。切り離し可能な容器を用いた真空装置間の試料移送は一般的に行われており、共同研究先にも数多くの先例がある。 (2)また、電気測定を別チャンバーで行うことを前提とした蒸着用マスクの製作を行う。同一環境下測定を前提とする場合、蒸着前の段階で3端子素子電気測定用プローブを搭載する必要があり、その上へ被せる蒸着マスクの密着度を十分に確保することが困難であった。しかし非同一環境下測定であればプローブ装着が不要となって設計の柔軟性が上がり、マスクをより試料へ密着させることができるため、本研究で作製する素子の歩留まりと信頼性の向上につながる。 これらの素子作成機構の整備を完了させたのち、実際に素子を作製しその電気特性を測定して電子構造との相関を議論する。本年度、有機EL素子のホール注入界面ならびに太陽電池の系について高感度UPSによる微小電子構造の実測を完了していることから、まずそれらを素子作製・特性測定の対象に取り上げる。また、電子構造実測と素子測定の成果について学術論文誌への投稿を行うほか、成果発表および情報収集のため応用物理学会をはじめとする国内学会・国際学会へ積極的に参加する。
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