研究課題/領域番号 |
18J21936
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
岡 未来子 首都大学東京, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 老化 / ATP / 脳 / 解糖系 / ミトコンドリア / カロリー制限 / グルコース / タウタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)脳神経細胞における加齢依存的なATP減少のメカニズムと老化におけるその役割、(2)タウタンパク質の毒性に対する脆弱性におけるその役割との関連、について調べている。 (1)について、これまでの結果から老化により脳内のATPが欠乏すること、それは神経細胞への糖取り込みを促進することで抑制できることを明らかにした。カロリー制限により寿命が延長することは、多くのモデル動物とヒトで報告されてきた。今年度は神経細胞への糖取り込みの増加とカロリー制限で見られる抗老化メカニズムについて調べてきた。その結果、Glutの神経細胞特異的な過剰発現により寿命が延伸することがわかった。さらにこの寿命の延伸は、カロリー制限条件下でその効果がより顕著になることがわかった。これらより、加齢した神経細胞でのATPの不足が老化の原因となること、またカロリー制限と神経細胞のグルコース取り込み促進の組み合わせにより、寿命を効果的に延伸させられることが示唆された。 また、(2)タウタンパク質の毒性と加齢依存的なATP減少の関連については、これまでの結果から、脳神経細胞へのグルコース取り込みを増加、または体液中を循環するグルコース量の減少により、不良タンパク質であるタウがオートファジーを介して分解されるということが示唆された。今年度はそれらの結果に基づき、食餌による糖摂取をコントロールした時のタウタンパク質への効果を検討した。その結果、タウ発現ショウジョウバエに高カロリーな食餌をさせたときにタウタンパク質が蓄積することがわかった。以上の結果から、神経細胞特異的な糖取り込みの増加はタウの毒性にポジティブな効果を与えるが、体全体の糖取り込みの増加はその毒性を悪化させるということが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、脳神経細胞における加齢依存的なATP減少のメカニズムと、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となるタンパク質タウの毒性に対する脆弱性とその関連、の二点に重点を当てて研究を行った。研究実施状況に記したように多くの成果が得られた。神経細胞内へのグルコース取り込みの促進と、カロリー制限を組み合わせると、Glut過剰発現でみられた以上に顕著に寿命が延伸することを見出した。さらに、タウについても、遺伝学的アプローチだけでなく、食餌による糖取り込みの効果を検討し、タウの毒性悪化に関するメカニズム解明の手がかりを得た。これらの成果は、国内・国際学会(日本神経科学会、Society for Neuroscience、認知症学会)での口頭発表・ポスター発表に採択され、老化を専門とする研究者からも高い評価を得た。これらより、研究は概ね期待通り進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)脳神経細胞における加齢依存的なATP減少のメカニズムと老化におけるその役割について、カロリー制限と神経細胞のグルコース取り込み促進の組み合わせにより、寿命を劇的に延伸させられることが示唆されたが、そのメカニズムについてはまだ不明である。それを明らかにするために、老化マーカー遺伝子の発現を網羅的に調べる予定である。。
(2)タウタンパク質の毒性に対する脆弱性におけるその役割との関連について、神経細胞特異的な糖取り込みの増加はタウの毒性にポジティブな効果を与えるが、体全体の糖取り込みの増加はその毒性を悪化させるということが示唆された.。神経細胞特異的な糖取り込みの促進によるタウの異常リン酸化への効果をウエスタンブロットで調べる。リン酸化サイトは、GSK3bとAMPKに着目して調べる。
以上の内容を年度内に論文として発表する予定である。
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