研究課題/領域番号 |
18J21942
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩澤 諄一郎 東京大学, 理学(系)研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 自己駆動粒子 / 集団運動 / アクティブマター / コロイド粒子 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
今年度はヤヌス粒子の集団運動系から得られる統計量からヤヌス粒子同士の粒子の相互作用の推定を目指した。具体的には集団運動が実現されているときとされていないときとで個々の粒子における速度ベクトルと極性ベクトルの相互相関関数を計算した。その結果t=0に対して、非対称な相関関数が得られた。具体的には先に速度ベクトルが変化して、それに追随するように極性が変化することを示唆する相関が計算された。数十kHzの高周波数の交流電場下でのヤヌス粒子の相互作用は全く知られておらず、今回の結果によって新たにヤヌス粒子の相互作用を知る手がかりが得られたことになる。
また、大腸菌の抗生物質下での進化実験におけるトランスクリプトーム解析を行なった。トランスクリプトームから抗生物質耐性(MIC)を予測する統計モデルを構成、さらに特徴量抽出を行い、その後主成分分析を行なった。この解析により、進化の終着点が与えたストレスの種類より少ない高々15個程度しかないことを突き止めた。この大腸菌実験室進化のフィットネス空間におけるアトラクター構造が何に起因するものかは今後調べていく予定である。
また、進化株において確認された共通変異を親株に導入することで、一つの変異がストレス耐性に及ぼす効果を定量した。その結果として、ストレス下で一か月実験室進化した株の多くは一つの変異ではなく、複数の変異の組み合わせとして耐性を獲得していることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヤヌス粒子の集団運動に関して、集団運動中の粒子の軌跡と極性時系列から相互相関関数を計算することにより、ヤヌス粒子同士の相互作用に関する知見が得られた。交流電場下でのヤヌス粒子の相互作用についてはこれまで十分に調べられておらず、今回の結果はヤヌス粒子をアクティブマター理論の実験的検証のプラットフォームとして用いるにあたって重要な一歩となる。また、近年アクティブマターのシミュレーションにおいて粒子極性と粒子速度を別に定義することで新規な集団運動の可能性が示唆されている。ヤヌス粒子における相互相関関数の結果は粒子速度と極性が非対称な役割を果たしていることを示唆しており、ヤヌス粒子での集団運動を異なるパラメータ領域で調べることにより、今後理論と実験との間でのさらなる相互作用が期待される。
また大腸菌を用いた実験室進化のトランスクリプトームを含めたマルチオミクス解析を通して、大腸菌のストレス適応、進化に対する新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
マクロな統計量として大域的秩序からのゆらぎの相関関数のべきの傾きがあるが、ヤヌス粒子の系においてはこれがくりこみ群による理論解析の結果と乖離していることがわかっている。今回、ヤヌス粒子の相互作用に関する知見が得られたので、このミクロな相互作用がマクロな集団運動に与える影響を相関関数の結果などを用いてから考察する。
大腸菌進化のトランスクリプトーム解析に関しては国際会議にて発表し、論文にまとめて報告する予定である。また今回の解析において、進化の行き先が進化の経路に依存していることを示唆する結果が得られた。今後は実験室進化において進化の経路における情報を密に抽出できる実験系をデザインし、経路が進化にどのような影響を与えるかをより詳しく研究していく。
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