研究課題/領域番号 |
18J21942
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩澤 諄一郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 自己駆動粒子 / アクティブマター / 非平衡統計力学 |
研究実績の概要 |
自然界に偏在する集団運動系において、生物・非生物に依存しない普遍的な法則を探究することが本研究の目的であった。上の目的のために自己駆動する非対称コロイド粒子であるヤヌス粒子を用いた実験を進めている。 自己駆動粒子の極性と速度ベクトルを独立に取り出して解析できることが本研究の強みの一つである。向きの揃った集団運動中で一粒子単位で粒子の振る舞いを調べている研究は他に類をみない。 本研究ではこのヤヌス粒子の系の強みを生かして、向きの長距離秩序が成り立っている秩序状態において、各粒子の向きの自己相関関数や向き・速度のクロス相関を計算することで、理論では予測されていなかった新しいべき的な減衰などを見つけることができた。 ヤヌス粒子を高密度で相互作用させることで、粒子の向きが大局的に揃うような秩序状態が見られることが前年度までの研究で分かっていた。そこで、この秩序状態での向きの揺らぎ相関を測定した。この揺らぎ相関はアクティブマター理論からの予測があるものの、数値計算で得られる結果と整合していないというのが現状である。実際本研究でも測定したところ、現在の理論の予想とは異なる指数のべき的な減衰が得られた。本研究と最近の他研究グループの数値計算の結果(Mahault, Phys.Rev.Lett 2019)とを合わせて、理論側に対する修正を要請できると考えている。 以上の結果を論文にまとめて、現在投稿準備を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験で用いている球形ヤヌス粒子は半面がチタンでコーティングされており、顕微鏡下でも粒子のもつ極性が確認できるということが一つの特徴となっている。この特徴を活かして、画像解析により集団運動中のそれぞれの粒子の極性を取り出すことに成功した。また、これとは別に粒子の軌跡を計算することで軌跡に沿った速度ベクトルを独立に求めることができた。現実の集団運動系をみたとき(例 細胞集団)、個々の自己駆動粒子は極性をもっており、その極性とは独立に速度をもって運動している。しかし、これまでの多くの数値計算では極性と速度は同一視されたモデルが使われてきた。今回私たちはそれぞれの粒子に対して、速度と極性のクロス相関関数を計算することによって両者に非対称な関係があることを明らかにした。さらに粒子の密度をあげて、粒子の相互作用頻度を増やすことでこの非対称性がさらに強くなることを実験から示した。このような速度と極性の間の非対称性がヤヌス粒子に限らず集団運動系に普遍的なものであるかを調べるのは今後の課題の一つである。 私たちの相関関数の解析は今後の理論研究の一つの指針となると考えている。これまでの解析の内容を現在論文にまとめて投稿準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度まで得られたヤヌス粒子の実験系での結果をまとめて、論文誌に投稿する。また、得られた結果を他研究室へのセミナー、学会への参加を通して広く伝えられるように務める。
また、大腸菌の薬剤耐性進化に関する解析を進めていく。薬剤耐性菌は世界的に大きな問題となっており、病原菌がどのように新たな薬剤への耐性を獲得していくかを調べることは根本的な解決に繋がると考えている。これまで私たちは大腸菌をモデルとして用いて、実験室進化を行った時の始点と終点のトランスクリプトームを比較することにより、薬剤耐性進化における大腸菌の進化的な拘束を調べてきた(Maeda, Iwasawa, et al, bioRxiv 2020)。今年度は大腸菌の進化最中の内部状態の軌跡を実験的に測定することにより、新たな進化拘束の解析を試みる。さらに、進化の始点と終点とで摂動を加えた時の内部状態の変化を定量し、解析することでさらなる大腸菌の進化拘束の理解を目指す。
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備考 |
大腸菌の薬剤耐性進化に関する解析をまとめた論文をbioRxiv に投稿した。現在論文誌に投稿中である。 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.02.19.956177v1
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