研究課題/領域番号 |
18J21957
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上岡 修星 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 高性能レーザー / パルス磁石 / 光共振器 / 複屈折雑音 / 真空複屈折 / 未知粒子探索 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は以下の3点に分けられる。 1. 共振のノイズ削減およびノイズ源調査。本実験では磁場を印加した際に光共振器中に発生する微小な偏光変化を探索する。最も大きな雑音源が共振器の制御の不安定さに起因するものだと判明していたため、これの削減を行った。フィードバックの強化や複屈折光共振器の応答を正しく理解することで、500Hz以上での雑音は設計レベルに到達した。それ以下の周波数では既知の雑音源や考えられる雑音候補と相関の取れない原因不明の雑音が観測された。先行研究でも同様の結果が報告されており、これまで検証されていなかった複屈折雑音について実験装置の詳細によらない雑音源の存在を確証することができた。 2. DAQの長期化、低雑音化。磁石の運転に関わらない共振器固有の雑音の削減に加え、磁石を運転した際の振動起因の雑音の削減や長期運転に伴う困難を解消した。振動対策や防音対策を行うことで以前の磁石運転時に比べ擾乱の寄与は2桁小さくなった。これにより精度良くsignal探索が行えるようになった。また、温度変化対策によりこれまで見られた感材の使用による大幅なアライメント変動が見られなくなり、データ測定期間もこれまでの1日以下程度から1週間弱にまで延長することに成功した。 3. 新型磁石の作成。信号は磁場の2乗に比例するため強力な磁場を発生させることのできる磁石の開発も重要である。現在の磁石の運転磁場は9Tである。感度を3倍向上させることを目標に運転磁場14Tの磁石開発を行った。今年度は小型で強磁場が発生させやすいプロトタイプの作成を行った。磁場印加テストを行った結果、目標磁場の14Tに到達した。実際にsetupに組み込むためのサイズの磁石を作成中であり、年度末時点でほぼ作成は完了し、2020年度初旬には光学系と組み合わせたsetupがinstallされる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
雑音調査、長期安定運転、新型磁石開発のそれぞれに十分な進捗があったため。 ・雑音調査については昨年度時点で、微小複屈折雑音の兆候は確認されていたが、そのほかの雑音の寄与も大きく、周波数依存性などは十分な検討が行えていなかった。今年度の改良により既知の雑音源の影響は観測されている雑音に比べて一桁程度小さく抑えることに成功し、大きさ、周波数依存性ともに先行研究に類似した雑音を観測することができた。雑音源の特定までには至っていないが、10年以上の問題である複屈折雑音の解明に向けて重要な一歩となった。 ・長期安定運転についてはパルス磁石使用に伴う最大の課題である、寒剤の使用と磁石自体の音、振動の影響を十分に抑えることができた。連続運転時間としても磁場印加時の安定性としてもこれまでの最高レベルを1桁程度上回るレベルに達することができ、パルス磁石と光共振器の同軸駆動を高いレベルで確立した。 ・新型磁石については、試作段階であるものの目標としている磁場に到達し、磁場については構造を完成させることができた。残る改良点としては磁場長さと冷却効率である。
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今後の研究の推進方策 |
複屈折雑音については、先行実験が提唱した熱雑音の可能性を疑っている。まずは複屈折熱雑音についての理論式を確立し、実験と比較する。これにより理論、実験の側面から複屈折雑音の原因を特定する。 また、試作結果を踏まえて新型磁石を完成させ、光共振器と組み合わせた運転を行う。磁場が強くなると振動や音の影響が大きくなるため、本年度得た経験をもとに、適切な除震、遮音を行うことで新型磁石でも安定長期駆動を確立する。 これらを踏まえて数週間程度の真空複屈折探索を開始する。装置の運転システムや解析手法はこれまでの研究で確立されているため、スムーズな測定、解析が行える見込みである。
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