研究課題/領域番号 |
18J21963
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大崎 果歩 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | トルストイ / ロシア正教会 / 聖書翻訳 / 日本正教会 / 破門 |
研究実績の概要 |
本年度は主に、トルストイによる正教会批判のテクスト、およびそれに対する正教会側の反応を分析することによって、トルストイと教会の対立点を明確化するという課題に取り組んだ。前期には研究指導委託制度によりモスクワへ渡航し、正教聖チーホン人文大学やトルストイ博物館付属図書館でトルストイの宗教論に関する膨大な先行研究の収集・読解を行なったほか、トルストイ―教会―国家という三者関係に着目することによって、トルストイの作品分析のみからは読み取れない当時の思想的・歴史的な時代背景の一端を明らかにすることができた。加えて、トルストイに下された「破門」をそもそも破門と呼びうるのかという問題を含め、この渡航中に、現代のロシア正教会の聖職者が、彼の「破門」についていかなる見解を有しているのかを知ることができた。 ロシア本国での対立の様相を扱ったこれらの研究に加え、日本におけるトルストイと教会の関係についての研究も行なった。具体的には、トルストイと正教会の対立という研究の一環として、明治から昭和初期にかけての正教会機関誌『正教新報・時報』やプロテスタント諸教会の発行する雑誌に掲載されたトルストイに関する記事を収集し、ロシア正教会を母体とする当時の日本正教会と、同時代のプロテスタント諸教会によるトルストイ宗教論受容の特徴や相違点に関する分析に取り組んだ。この研究成果は、3月に早稲田大学で開催されたロシア思想史研究会にて「日本のキリスト教諸教会におけるトルストイ受容:正教会とプロテスタント諸派を中心に」という題で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はトルストイ自身の作品『要約福音書』の分析から発展したものであるが、今年度はトルストイ自身の宗教論のみならず、それらに対してロシア正教会の聖職者が行なった批判にまで分析の範囲を広げ、正教会の聖職者たちがトルストイの教会・教義批判に反論する際の主要な論点を整理することができた。また、日本のキリスト教諸教会におけるトルストイ受容研究に関しても、予測を上回る量の資料を発見し、その分析結果を研究会で発表することができた。 加えて、モスクワ渡航によって、トルストイと正教会の対立を専門とする研究者と交流を結び、今後も継続的に研究上の助言を受けることのできる関係を築くことができたほか、紹介状を得て、トルストイに関するロシア語資料を網羅的に収集したトルストイ博物館付属図書館の継続的な利用が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、『四福音書の翻訳と統合』や『子どものためのキリストの教え』等、トルストイの聖書翻訳・翻案事業に焦点を当て、それらの著作のもつ特徴や執筆経緯、聖職者によってなされた批判等について研究を進める予定である。また、日本のキリスト教諸教会におけるトルストイ受容についての研究をさらに掘り下げ、論文として発表することも予定している。
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