研究課題/領域番号 |
18J21985
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣澤 智紀 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | マグノン / フロケ理論 / マルチフェロイクス / 磁気スカーミオン |
研究実績の概要 |
近年トポロジーの概念により、固体中の電子の性質を理解しようとする試みが盛んに行われている。その成果としてこれまでにない新たな電子相が見つかっている。例えばトポロジカル絶縁体はバルク中でバンドギャップを持つが、表面上では対称性に守られたエッジ流が流れるという興味深い性質を示す。トポロジカルな性質を持つのは電子系だけでない。スピンを運ぶボソン準粒子である磁性体中のマグノンでも同様の議論がなされている。 マグノントポロジカル絶縁体におけるエッジ流は、散逸されにくいという性質からスピントロニクスへの応用が期待されている。一方、マグノンは常に正のエネルギーを持つため、トポロジカルな性質を持つバンドも高エネルギー領域にある場合が多い。本研究の目的は、マグノン系にフロケエンジニアリングを適用することでその問題を解決することである。フロケエンジニアリングとは、高い振動数を持つレーザー光などの外場と結合させることでより応用上望ましい性質を得るという手法である。
本研究においてフロケマグノンの新たな構成法として以下の手法を検討した。マグノンは古典スピンの基底状態からの集団励起モードに対応する。一方、時間依存性を持つ外場下において古典スピンの基底状態を考えることはできない。しかし、ギルバート散逸など現象論的な散逸項を取り入れることで、振動する磁場下であっても古典スピン系は定常状態に至ることができる。こうした定常状態からの励起として、フロケマグノンを定義することができると考えられる。本研究ではマルチフェロイクス物質において電場の寄与を取り入れたランダウ=リフシッツ=ギルバート方程式を解いて古典スピンダイナミクスを求めることで、時間依存する古典スピンダイナミクスの影響を取り入れることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、ジャロシンスキー・守谷相互作用を持つ二次元強磁性体かつマルチフェロイクス物質であるCu2OSeO3について研究を行っている。この物質は一定の磁場下でスカーミオンからなる周期的な磁気構造をつくることが知られており、スカーミオン格子におけるフロケマグノンについて調べている。よく知られているスカーミオン格子のマグノン励起に回転モードとブリージングモードがある。これらの励起は等方的な振動磁場により励起することが可能であり、その周波数を測定することも容易であるため重要な励起モードである。これらのモードのエネルギーは外部磁場によって変化し、高磁場側でトポロジカル相転移を伴うバンド反転が起きることが知られている。つまり、外部磁場によりトポロジカルに保護されるエッジ流の制御ができる可能性がある。
一方、フロケ理論により高周波数の円偏向する磁場は垂直方向に有効磁場をつくることが知られている。このことを利用し、円偏向レーザーにより高速なトポロジカル制御が可能であることを検証した。まず振動磁場下における古典スピン系の定常状態を調べた。定常状態を求めるにあたり、ランダウ=リフシッツ=ギルバート方程式を解いて時間に依存する古典スピン系の時間発展を計算した。振動磁場の大きさを変えながらスカーミオン格子の回転モードとブリージングモードの励起周波数を調べることで、フロケマグノンのバンド構造においてバンド反転が起きることを見つけた。また、有限系で同様の解析を行い、バンド反転を引き起こす強度の振動磁場下ではトポロジカルに保護されたエッジモードが現れることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で振動する磁場の寄与を古典スピンダイナミクスとフロケ理論を組み合わせた手法により理解することができた。今後はCu2OSeO3の電場との相互作用の大きさを取り入れて、電場の効果がフロケマグノンのバンド構造に与える影響を研究する。
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