研究課題/領域番号 |
18J22016
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 乃理子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤送達システム / 高分子集合体 / 血液脳関門 |
研究実績の概要 |
脳を標的とした薬剤送達システム(Drug delivery system: DDS)の開発において、脳血管と脳実質との間の物質輸送を阻害し脳を守るための機構として重要な役割を担う血液脳関門(Blood-brain barrier: BBB)を突破できるような担体の創製は不可欠である。申請者の所属する研究グループでは脳血管内皮細胞に多く発現し、血糖値の操作によりその局在を制御することが可能なグルコーストランスポーター1(GLUT1)に着目し、表層にリガンド分子としてグルコースを修飾した高分子ミセル(Gluc/m)を開発した。Gluc/mはその表層におけるリガンド分子の密度と血糖操作を最適化で、抗体医薬や既存のDDSキャリアと比較し数十倍以上に相当する6.0 dose%/g-brainの脳集積率を達成した。グルコースとGLUT1との相互作用は他の生体内における相互作用と比較すると極めて弱いものであり、Gluc/mがGLUT1に結合しBBBを突破するためには多価効果が重要であることが推測される。さらに、最適値と比較し過剰にリガンド分子を装着したGluc/mは血管内皮細胞にその大部分が留まっていることが凍結脳切片の免疫染色にから明らかになっており、脳実質側においてGluc/mがGLUT1から解離しGLUT1のリサイクリングが促進されることが高効率にBBBを通過するDDSの構築において重要であることが示唆された。以上より、 Gluc/mを多様な薬剤の担体として展開する上で、そのリガンド分子と標的膜蛋白質との相互作用を詳細に解析することは有用であると言える。申請者は昨年度の研究において、高分子ミセルの親水性シェルを構成するポリエチレングリコールの鎖長がその末端に修飾したリガンド分子と標的膜蛋白質との相互作用に影響を及ぼすことをin vitro, in vivoにおいて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究において、高分子ミセルの親水性シェルを構成するポリエチレングリコール(PEG)の鎖長が、その末端に修飾したリガンド分子の標的認識能に大きく寄与することを明らかにした。具体的には、分子量2, 5, 12 kDaのPEGを用いたグルコール修飾高分子ミセル(Gluc/m)を作製し評価し、グルコールトランスポーター1(GLUT1)との相互作用を解析した。粒径や多分散指数、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察された形態に差はない一方で、長鎖長のPEGを用いるほど高分子ミセルの会合数が減少することを静的光散乱(Static light scattering: SLS)により確認した。このことは、高分子ミセル1個あたりに修飾できる最大のリガンド個数がPEGの鎖長により変化することを意味する。また鎖長の異なるPEGを用いたGluc/mの、GLUT1を多く発現する細胞MDA-MB-231への取り込みはPEGの鎖長が長いほど減少し、Gluc/mのマウス脳への集積量もPEGの鎖長が長いほど減少することを明らかにした。これらのことから、高分子ミセルに修飾したグルコース分子と標的膜蛋白質GLUT1との相互作用はin vitro, in vivoにおいてPEGの鎖長に影響を受けると言える。原因として、高分子ミセルの会合数の変化による最大リガンド密度の変化、PEGの鎖長の違いによるリガンド分子の運動性およびそれに起因する標的膜蛋白質へのaccessibilityの変化が考えられる。 また、脳実質の還元環境に応答しミセルからベシクルへと相転移する高分子集合体を形成するブロック共重合体を合成し、DTT添加に応答した相転移に伴う粒径の増加を動的光散乱により測定した。
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今後の研究の推進方策 |
主にリガンドの導入とその最適化を行う。昨年度の検討の結果から最適と考えられるブロック共重合体に対し、高分子量PEGのα末端にグルコース分子、低分子量PEGのα末端にN 3 基を導入したものを合成する。FcFrのSH基をDBCO基に変換したDBCO-FcFrを合成する。高分子ミセルを調整しDBCO-FcFrの添加によりFcFrの導入を行う。高分子ミセル調製時にグルコース分子を導入したブロック共重合体と導入していないブロック共重合体、N3基を導入したブロック共重合体と導入していなブロック共重合体の混合比を変化することによってリガンド密度の異なる高分子ミセルを作製する。リガンドを導入した高分子ミセルの還元環境に応答したベシクルへの相転移とそれに伴う物質回収を評価し、ブロック共重合体設計のさらなる最適化を行う。
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