研究課題/領域番号 |
18J22016
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 乃理子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤送達システム / 血液脳関門 / トランスポーター / 高分子ミセル |
研究実績の概要 |
近年発展を遂げるナノテクノロジーにおいて、高分子ミセルを基盤とした薬剤送達システム(DDS)の創製が多くの疾患及び薬剤を対象に検討されている。高分子ミセルは精密に設計したブロック共重合体の自律的会合によって形成され、薬剤の内包、その放出を制御する機能が組み込まれている。またその多くがポリエチレングリコール(PEG)などの生体適合性に優れた高分子を親水性セグメントとし、血漿タンパク質等との非特異的相互作用を抑制する。互いに反対電荷を有する荷電性セグメントと PEGからなるブロック共重合体が静電相互作用を駆動力とし形成するポリイオンコンプレックス型高分子ミセル(PICm)は、コアを共有結合により容易に架橋できるため希釈、イオン強度、有機溶媒、pH変化に対する安定性が高いことからDDSキャリアとしての展開が数多く報告されている。一方で、その基礎的な物性評価、情報については未だに十分ではない。そこで本研究では、まず化学量論を含むある一定の範囲の比率でポリアニオン/ポリカチオンを混合した条件でPICmが形成することを見出し、各条件において形成したPICmを物理化学的に評価しその生体内における挙動との関連を検討した。 また、PICmは肝臓や腎臓への集積を抑制し血流中を安定に循環するため、血液脳関門(BBB)などの生体バリアの通過性をin vivoにおいて評価することに適したDDS担体であると言える。実際に本研究グループではBBBを形成する脳血管内皮細胞表面に発現するグルコーストランスポーター1(GLUT1)を標的とし、表層にリガンド分子としてグルコースを導入したPICm(G-PM)を開発し、既存の抗体医薬や先行研究と比較し数十倍もの脳集積量を実現した。本研究ではG-PMにおけるリガンド分子とGLUT1との多価効果、PEG鎖の立体反発がその薬剤送達効率に寄与する影響を網羅的に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
G-PMの脳への薬剤送達効率に1粒子あたりのリガンド個数及びPEG鎖の立体反発が寄与する影響を解析するにあたり実験系を構築する過程において、G-PMもその一つであるポリイオンコンプレックス(PIC)型高分子ミセルにおいてコア内部の荷電比がその物理化学的特徴、さらには生体内挙動に影響する可能性を見出した。これまでナノ粒子表層の電荷がその物性に影響することは知られており多くの研究がなされてきたが、コアの荷電の影響に着目し評価した研究は存在しない。本年度中にコアの荷電比が異なるPIC型高分子ミセルの基礎的物性および生体内挙動に関する網羅的解析の多くを完了し考察を加えたことは大きな進歩であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
PEG-ポリアニオンとPEG-ポリカチオンとの静電相互作用を駆動力として形成するPICmは、その安定性からDDS創製において有用なモデルとなりうる。しかし、ポリカチオンリッチな条件で調製されたPICmはコアのアミンがその体内動態に寄与することが示唆された。今後はポリアニオンリッチ、ポリカチオンリッチな条件で調製されたPICmの物性をより詳細に評価する。具体的には、蛍光修飾蛋白質存在下での蛍光相関分光法(FCS)測定により蛋白質とコアとの相互作用を評価し、さらに、X線小角散乱法(SAXS)によりコア-シェル構造を解析する。 PICmを用いた能動標的化DDS担体の標的認識能の解析では、親水性セグメントとしてのPEG鎖長とリガンド密度の2つのパラメタの影響を評価した。G-PMのBBB通過は、(1) 脳血管内腔側におけるG-PMのGLUT1への結合、(2) 脳血管内腔側から脳実質側へのトランスサイトーシス、(3) 脳実質側におけるG-PMのGLUT1からの解離の3段階で成り立っていると考えられる。これまでの結果から、弱い相互作用の集積により強い相互作用を実現する多価効果が(1) G-PMのGLUT1への結合に寄与することが明らかとなったが、(3) G-PMのGLUT1からの解離においてもG-PMとGLUT1との相互作用を適切に制御することが重要であると推測される。実際、リガンド個数が最も多いG66-2kPMはG33-2kPMよりも低い脳集積率を示した。今後、培養細胞表面のGLUT1と相互作用したG-PMの解離を共焦点レーザー顕微鏡で経時的に観察することでG-PMとGLUT1との結合の強さがG-PMのGLUT1からの解離に及ぼす影響を評価する。
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