疾患部位選択的に薬剤を送達するDDSの分野において、標的部位に発現する蛋白質等と特異的に相互作用するリガンド分子を担体表層に導入するactive targeting DDSがより高い選択性の実現において有効な手法である。リガンド分子としては各種の受容体に結合するリガンドや標的細胞選択的に過剰発現する蛋白質に結合する抗体に興味が持たれてきた。一方で、細胞表面には特定の低分子化合物を通過させ細胞内外の物質交換を司る各種トランスポーターが発現している。近年ではトランスポーターを標的とし通過物質をリガンドとする試みも盛んになっている。近年、血液脳関門(BBB)を構成する脳血管内皮細胞に発現するGLUT1を標的とし表面に複数のグルコースを結合したナノ粒子(G-PM)を用いて高い効率で薬剤を脳内に送達できる方法論が候補者の所属する研究グループによって開発された。トランスポーターとリガンドとの相互作用は弱く例えばGLUT1とグルコースの結合定数はKD = 3 mMで、G-PMのGLUT1への結合、apical側からbasal側への転位、GLUT1からの解離という一連の過程を経て高効率にBBBを通過するには一つのG-PMに対して複数のGLUT1分子が結合する多価効果による結合・解離の制御が重要である。しかし、G-PM等のトランスポーター介在DDSにおいて多価効果に着目した詳細な解析は行われておらず、これらは基盤技術として未熟である。本研究ではコアを共有結合により架橋でき高い安定性を有するポリイオンコンプレックス型高分子ミセルの基礎的物性と生体内挙動との関連、及びグルコース分子を結合したG-PMの1粒子あたりのリガンド個数、表層の親水性セグメント・ポリエチレングリコール鎖の立体反発効果が脳集積量に及ぼす影響を詳細に評価し、内包薬剤に依存しないトランスポーター介在DDSの基盤技術を確立した。
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