研究課題/領域番号 |
18J22025
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石野 響子 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | RNAサイレンシング / PIWI-piRNA / 哺乳動物 / 生殖細胞 / ハムスター |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,哺乳類の「雌の生殖細胞」におけるPIWI-piRNAの分子機能解明である.本研究はハムスターをモデルとして(1)個体レベルおよび(2)分子レベルの2つの側面から「雌の生殖細胞」におけるPIWI-piRNAの機能に迫る. 【個体レベルの成果】CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて,ハムスターの卵巣で発現する3種類のPiwi遺伝子; Piwil1,Piwil2,Piwil3について遺伝子改変ハムスターの作製を実施し,Piwil1およびPiwil3について複数系統のファウンダーを得ることに成功した.Piwil1改変ハムスターでは不妊の表現型が示唆された.一方Piwil3改変ハムスターは出産するものの,一腹あたりから生まれる仔の数が減少する表現型が観察された.さらにPiwil3改変ハムスターから採取した受精卵をin vitroで培養すると,胚盤胞まで正常に発生する胚は全体の約10%であり,90%は発生が途中で停止することが明らかとなった.発生が停止した胚は3細胞や5細胞など,異常な形態が観察された.これらの結果からPiwil1とPiwil3は卵子において異なる機能を有している可能性が示唆された. 【分子レベルの成果】抗PIWIL1, PIWIL2, PIWIL3モノクローナル抗体を作製し,これらを用いて免疫沈降法により各PIWIに結合するpiRNA群を卵巣,排卵された卵細胞および2細胞期の初期胚,それぞれにおいて濃縮したところ,(1. PIWIL3には19-21塩基長の非常に短いpiRNAが排卵された卵細胞でのみ結合している (2. PIWIL3はpiRNAが結合する時期でのみ質量が40 kDaほど増加する (3. PIWIL1はPIWIL3のように質量は変化しない一方で,結合しているpiRNAの塩基長が発生の進行に伴い短くなる,という3つの現象を新たに発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)個体レベルおよび(2)分子レベルの両者において,研究計画書に記述した通りに実験を実施し,一定の成果が得られているため.
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今後の研究の推進方策 |
前述した研究実績を踏まえ,今後の方策を以下に示す. 【個体レベル】Piwil3を欠損した系統に関して,排卵から初期発生における表現型の有無をより詳細に観察することを計画している.またPiwil2についても同様にファウンダーを得たのち,交配によって遺伝子改変ハムスターを系統化する.さらにこれらの系統を交配させることにより,ダブルミュータントの個体を作製する. 【分子レベル】(1. PIWIL1およびPIWIL3に結合する各piRNAの配列を決定する:超並列シーケンサーを用いて解読し,解析を現在おこなっている段階である.(2. PIWIL3の質量が大きくなる原因を明らかにする:質量が増大する原因は糖鎖やユビキチン化など何らかの修飾によるものだと仮説を立て,その検証実験をしている段階である.(3. 卵細胞における遺伝子発現プロファイルの取得:排卵された卵細胞は,卵巣および初期胚とは細胞内の状態が異なることが予想される.そのため排卵された卵細胞における遺伝子発現プロファイルを取得するべく,超微量サンプルからライブラリ調整をおこなう実験系を確立し,現在は超並列シーケンサーによる配列解読,データが得られたサンプルから解析を進めている.各PIWI遺伝子欠損ハムスターのサンプルについても準備が整い次第,配列解析を進める準備が出来ている.(4. リファレンスゲノムの品質向上:現在公開されているリファレンスゲノムは全体の20%が「N(ギャップ)」となっている.このギャップを埋めることで,超並列シーケンサーで得られたデータをより有効に解析する.
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