PIWIタンパク質は主に生殖細胞で発現し、小分子RNAの一種であるpiRNA(PIWI-interacting RNA)と複合体を形成することでRNAサイレンシングを介したトランスポゾンの発現抑制に寄与する。哺乳類のモデル生物であるマウスはオスのみでPiwi遺伝子ファミリーが発現しており、これらの遺伝子欠損マウスはいずれも精子形成不全により不妊の表現型を示すが、メスは健常である。近年、マウスを除くほぼ全ての哺乳動物はメスにおいてもPiwiが発現している。一方卵細胞におけるPIWI-piRNA複合体の機能は不明である。そこで本研究では、卵細胞でPiwiを発現するゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus)を実験モデルとして、メスにおけるPIWIとpiRNAの解析をおこなった。 まずハムスターにおけるPiwiファミリーの発現をトランスクリプトーム解析とPCRにより検証した。結果、卵細胞ではPiwil1およびPiwil3の発現が強くみられたため、この2種を研究対象とした。次に各PIWIタンパク質を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体を作製し、免疫沈降法によりそれらに結合するpiRNA群を卵巣、未受精卵(MII oocyte)および2細胞期胚から単離した。その結果、PIWIL1では卵成熟過程を経るにつれ結合するpiRNA群の塩基長が短くなることを新たに見出した。一方PIWIL3においては、MII oocyteでのみ19塩基長前後のpiRNAが結合していること、さらにその結合にはリン酸化修飾が必要であることを明らかにした。 本研究によって得られた知見は、ハムスターの卵細胞におけるpiRNAの特徴を明らかにし、新たに得られたゲノム情報と合わせることで、哺乳動物の卵細胞におけるpiRNA研究の有用なモデル基盤となることが期待される。
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