研究課題/領域番号 |
18J22030
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上村 洋平 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 有機強誘電体 / 強誘電ドメイン / ドメイン壁 / イメージング技術 |
研究実績の概要 |
プロトン移動型有機強誘電体は、無機系に匹敵する高い自発分極と低い抗電場を示す新しい分子性材料である。多くの有機溶媒に可溶であることから印刷技術を用いたデバイス構築も可能であると期待されている。本研究ではプロトン移動型有機強誘電体の薄膜における特性を制御し、低電圧駆動デバイスを実現することを目標としている。特にミクロな強誘電ドメインの理解・制御が不可欠であると考え、これまでに電気光学効果を用いて強誘電ドメインを可視化する光学手法「強誘電体電界変調イメージング(FFMI)」を開発している。FFMIは結晶を透過した光を観測するため、膜厚方向のドメイン構造を反映した結果が得られる。今年度は強誘電ドメイン構造の理解を進めるために、FFMIを用いて単結晶薄膜における強誘電ドメインの3次元構造を明らかにした。また、これにより強誘電ドメインの構造と結晶構造との対応を明らかにした。 プロトン移動型有機強誘電体の薄膜について、FFMIの信号強度分布をもとに強誘電ドメインの3次元構造を解析した結果、薄膜中には方位が異なる2種類のドメイン壁が存在することが明らかとなった。また、表面敏感な圧電応答力顕微鏡およびX線構造解析と組み合わせて2種類のドメイン壁と結晶構造の対応を調べた結果、2種類のドメイン壁はどちらも自発分極に平行で電気的に中性なドメイン壁であることが判明した。このことから、プロトン移動型有機強誘電体における強誘電ドメインの形成ではドメイン壁の界面エネルギーが重要な役割を果たし、静電エネルギーが最小となる方位のドメイン壁が優先的に形成されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに開発していた強誘電ドメイン可視化技術を発展させることで、薄膜における3次元のドメイン構造を明らかにすることができた。深さ方向のドメイン構造を解析することは従来の走査プローブ顕微鏡では困難であり、透過光を観測する本手法の特徴を活かすことで観測に成功した。強誘電ドメインの3次元構造が明らかになったことで結晶構造との比較が可能になり、ドメイン壁の方位と分極方向の相関が明らかになった。強誘電体の分極反転はドメイン壁の運動によって行われるため、ドメイン壁の性質を明らかにした今回の結果は強誘電特性の理解および制御を促進すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
プロトン移動型有機強誘電体について、外部電場による強誘電ドメインの運動を観察することで分極反転のダイナミクスを観測する。これまでに薄膜化によって分極反転速度が低下することが判明していることから、結晶/基板や結晶/雰囲気などの界面状態が強誘電特性に及ぼす影響を調べる。薄膜の強誘電特性に影響する要因を理解することで、特性を制御するための指針が得られると考えられる。 また、今年度までに開発してきた強誘電ドメイン可視化技術は可視光域に吸収をもつ材料のみが測定可能であるため、より多種の物質にも適応可能な手法の開発を行う。
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