研究課題/領域番号 |
18J22069
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡邉 有希乃 早稲田大学, 政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 公共工事調達 / 競争入札 / 予定価格 / 最低制限価格 / 応札数抑制 / 限定的合理性 / 情報コスト / 取引費用 |
研究実績の概要 |
2019年度は前年度中に得た方針を引き継ぎ、現行の公共調達制度運用について、行政組織の限定的合理性の観点から説明することに取り組んだ。その際、研究課題の関心である「競争緩和(制限)」に準じ、1.調達を競争入札に頼りながら、入札が導く競争価格に対して、落札の上下限拘束額を設定すること、2.入札の競争性向上を目指す制度改革が進行する一方で、応札数抑制の傾向が続いてきたこと、を具体的な考察対象とした。 公共調達では「低価格・高品質」の追求が求められるが、現実上の行政組織にとって、トレードオフ関係にあるこれら二価値間の最適なバランスを考慮し、唯一最良の事業者を見出すことは、情報コストの面で高負担である。しかし行政学的な意思決定理論によれば、人間や組織は限定合理的に、即ち、様々な戦略により情報コストを軽減しながら、適切な選択肢に接近しているという。これに従えば、1.や2.の制度運用は、低価格で高品質な公共調達を目指すための、限定的合理性下の戦略として説明される。 1.については、上限拘束が「低価格」、下限拘束が「高品質」の満足水準となることで、二価値間のバランスを考慮する複雑な意思決定をせずとも、両者を並立させたまま適切な事業者に接近できる(満足化戦略)。2.については、事業者の施工能力に基づいて入札参入を制限することで、価格競争入札の開始以前に、品質を確保しておく意図が観察される。両価値に同時に対処するのは困難でも、まずは品質・次に価格という逐次的な方法で向き合えば、適切な事業者を見出すことができる(逐次的処理戦略)。 以上の仮説は、実証的にも支持された。1.については国・地方自治体の調達実務担当者を対象としたアンケート調査によって、2.については国交省地方整備局の入札結果データを用いた計量分析によって、実際に両制度運用が行政組織の負担する取引費用を削減していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度中の研究活動については、前年度中にあった方針転換を受けて、より一般的な公共調達制度運用の在り方に注目する中で展開した。この試みにおいて、研究開始当初からの関心であった「日本の公共調達行政における競争制限的な傾向」と整合するような具体的制度運用事例を発見し、説明対象として明確に規定したことは、研究課題をより普遍的な文脈へと昇華させることに貢献した。さらにこれについて、行政学的な理論に依拠した仮説構築と実証データによる検証が叶い、まとまりのある研究成果として蓄積することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究課題の最終年度にあたるため、本年度までに蓄積された研究成果をひとつの論文(博士学位請求論文)にまとめることを最大の目標として、研究活動を展開する。但しその際、本年度の研究活動を行う中で発見した新たな疑問についても、何らかの解答を用意できるよう、並行して分析を続ける。具体的には、競争入札の落札価格に対する下限拘束の運用を巡って、国の機関による入札では「低入札価格調査制」しか与えられていないのに対し、地方自治体による入札では「低入札価格調査制」と「最低制限価格」の二つの制度的選択肢が与えられている。この差を生んだ背景要因についても、これまでの研究と同様の理論枠組を援用しつつ、整合的な説明を与えていきたい。
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