研究課題
研究全体を通して,乳幼児の視線知覚と社会的学習のメカニズム解明を目的としている。研究1では、アイコンタクトの有無、そして他者の情報提供者としての信頼度を操作した視線追従場面で、乳幼児の視線追従行動がどのように調整されているのかを検討した。視線追従場面の前に、提示される物体に対して視線を向ける場面、または視線を背ける場面を繰り返し乳幼児に観察させることで他者の情報提供者としての信頼度を参加者間で操作した。その結果、乳幼児はアイコンタクトが生じた場面、もしくは他者の信頼度が高い条件において、視線追従をチャンスレベルより高い確率で行うことが示された。また、アイコンタクトが生じた場面、または信頼度の高い他者が呈示された場合では、乳幼児の心拍が上昇していることがわかった。心拍がより増加している試行では、乳幼児は視線追従を行う確率が高いことも示された。以上の結果は、乳幼児の視線追従を調整する文脈的な情報が、乳幼児の身体状態に作用することで視線追従の誘発に関与している可能性を示唆するものである。乳幼児の視線追従の神経生理学的メカニズムの解明に重要な知見であると考えられる。研究2では、アイコンタクトが乳幼児に与える学習促進効果がどのような特徴をもっているのか検討した。課題の動画では、女性が画面中央に現れ、目を開けて(アイコンタクト条件)、もしくは目を閉じたまま(閉眼条件)無意味語を発話した。その後、画面左右に白い四角形のみ呈示され、左右どちらかの四角形にアニメーションが呈示された。アニメーション呈示前の左右どちらかの四角形に対する予測的視線を計測することで、無意味語の発話と左右どちらにアニメーションが呈示されるかの位置についての連合を学習する過程について検討した。現在、予定サンプルサイズの半数の乳幼児のデータを取得済みである。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究に引き続き、乳幼児における視線追従の生理的メカニズムの解明を目指し、乳幼児を対象とした視線追従場面での視線・心拍計測を行った。すでに45名の乳幼児をリクルートし、実験室でのデータ取得を行い、データ解析までを行った。研究成果は国際学会でのポスター発表にて公表され、現在国際誌への投稿を目指し論文執筆中である。本研究は、昨年度示された視線追従行動を予測する心拍の上昇がどのような認知によって生じるのかを示唆することができるため、乳幼児の視線追従メカニズムの理論の精緻化に重要な研究である。また、アイコンタクトが乳幼児の学習を促進することは先行研究で示されていたが、どのように学習過程に影響するのかについては明らかでなかった。乳幼児の社会的学習メカニズムについての解明に必要な実証研究であり、今年度中にデータ取得を終える予定であった。しかし、現在は予定していた人数の約半数の乳幼児データのみ取得済みであり、今後もデータ取得を継続する必要がある。以上のように、データ取得に遅れは生じているが、研究1については国際学会での成果発表済みであり、並びに現在論文執筆中であることから、おおむね順調に進展していると評価できる。
これまでの研究から、場面に応じた内部状態の調整は、社会的インタラクションへの従事と関連していることが示唆される。アイコンタクトが視線追従を促進するという現象は、乳幼児は他者のコミュニケーションの意図に感受性があり、コミュニケーションの意図を伝える手がかりが呈示された場面において社会的学習が促進するというNatural Pedagogy仮説の重要な論拠となっている (Csbra & Gergerly, 2009)。しかし、これまでの研究では、アイコンタクトが乳幼児の学習プロセスにどのように影響しているのかは検討できていない。そこで、今年度の研究では、アイコンタクトが手がかりと報酬について連合学習する過程について、アイトラッキングを用いて視線行動・瞳孔サイズから検討する。スピーチ手がかりとアニメーションの位置についての連合学習を7か月児で検討したパラダイムを参考に用いる。直視条件と閉眼条件の2条件について被験者間計画で各20名の7か月児を対象にデータ取得を行う。各試行では、女性が直視、または閉眼のまま発話し、その後、画面中央の人物が消え、左右どちらかの四角形に音つきのアニメーションが報酬として呈示される。この課題では、乳幼児はスピーチ手がかりと報酬のアニメーションの位置について学習していく。分析には、顔の呈示が終了し、白い四角形のみが呈示された時点で左右どちらの四角形に視線を向けたかを予測的視線とし、連合学習の指標とする。直視条件では報酬の位置を正しく予測できるようになるまでの試行数が閉眼条件と比べて少ないことが予測される。本研究のデータ取得・分析後、国際学会での発表と国際誌への論文投稿を予定している。また、これまでの実証研究結果を統合し、乳幼児の社会的学習メカニズムについて理論を構築し、レビュー論文を執筆する予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件)
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