研究課題/領域番号 |
18J22111
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米澤 大志 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | RUNX1 / E3リガーゼ / ユビキチン化 / 造血器腫瘍 / PROTACs / 新規治療薬 |
研究実績の概要 |
A: RUNX1は造血細胞の発生及び分化に重要な転写因子として知られている。最近の研究でRUNX1は、多くの造血器腫瘍の形成を促進すると報告されている。またそれら造血器腫瘍においてRUNX1の機能を阻害することで腫瘍細胞の増殖を抑制し、RUNX1依存性腫瘍モデルマウスの生存が延長する事からRUNX1は治療標的として期待が持てる。したがって、RUNX1依存性造血器腫瘍おいて、現段階で治療困難とされる患者さんへの治療効果が期待できる点がこの研究の意義及び重要性と言える。そこで申請者らは、RUNX1の分解誘導を促進する治療薬の開発を行うべく、まずRUNX1のユビキチン化による分解機構の解明を行ない、E3リガーゼSTUB1を同定した。さらに、STUB1を白血病原因融合遺伝子RUNX1-RUNX1T1保有細胞株に過剰発現すると、細胞増殖が抑制することを発見した。したがって、内因性のSTUB1によるRUNX1のユビキチン化及び分解を強制的に誘導すれば、RUNX1依存性造血器腫瘍の治療薬開発に繋がる可能性がある。そこで、RUNX1及びSTUB1に結合する低分子化合物をそれぞれ見つけ出し、それら化合物をつなぎ合わせる事でターゲットタンパク質の分解を強制的に誘導する低分子化合物 “PROTACs”を作製することが本研究の主な目的である。
B: 申請者らは、RUNX1非分解型E3リガーゼRNF38及びDTX2を同定しており、これらE3リガーゼによるRUNX1の機能解析がもう一つのテーマである。RUNX1のユビキチン化修飾に関する研究は、分解型E3リガーゼに関しては報告があるが、それ以外の機能に関してはまだ不明な点が多く、今回発見したRUNX1非分解E3リガーゼ (RNF38, DTX2)は、ユビキチン化修飾という観点から新たな生物学的意義を見出せる可能性があるという点で重要であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A:申請者らが考えている”PROTACs”という手法は、基質タンパク質及びE3リガーゼに結合する低分子化合物をそれぞれ見つけ、さらにそれら化合物をつなぎ合わせることで、強制的に目的のタンパク質の分解誘導を促すというものである。本年度はRUNX1及び基質E3リガーゼSTUB1に結合する低分子化合物を探索するための実験系を構築した。まず行ったのが、スーパーコンピューター (東京大学医科学研究所)を用いたバーチャルスクリーニングである。具体的にはRUNX1及びSTUB1タンパクそれぞれと、20万化合物(東京大学創薬機構)の構造データを用い、コンピューター上で“AoutDockViena”というソフトウェアを用いタンパクと化合物のドッキングシミュレーションを行なっている。(現在スクリーニング進行中である。) さらに、実際に候補化合物に標的タンパク質が結合するかどうかを調べるために、“ThermalShift assay” という手法を用いたいと考えている。この手法は、タンパクの変性温度を蛍光強度で検出するもので、タンパク質に化合物が結合するとタンパク質の熱安定性が増し、変性温度も上昇する。我々はその変性温度の差異を検出し、タンパクに結合する化合物を探し出そうと考えている。実際に、RUNX1に結合するDNA配列を入れることで濃度依存的な変性温度の変化を確認した。
B:申請者らは、RUNX1の基質E3リガーゼを同定する際にRUNX1非分解型E3リガーゼRNF38及びDTX2を同定している。本年度、RNF38に関して特定の血球分画に対してRUNX1と強調しRUNX1の機能を高めることを発見した。さらに、RNF38はRUNX1のプロテアソーム及びオートファジィーによる分解を抑制している可能性を見出しこれらの知見を国際誌に発表した。 以上の2点より、本研究課題は概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
A:来年度は、実際にRUNX1及びSTUB1タンパクに結合する化合物を探索すべくバーチャルスクリーニングの結果を用い、実際に“ThermalShift assay”にかけ、RUNX1及びSTUB1に結合する低分子化合物を探索しようと考えている。さらに、見つけ出した化合物同士をつなぎ合わせることで、RUNX1分解型 “PROTACs”を作成しようと考えており、合成設計計画を検討したい。具体的な手法としては“Click Chemistry”を用いる。この手法は、結合能反応性を持つ二つの官能基をRUNX1及びSTUB1に結合する化合物にそれぞれ付加し、その修飾を持った化合物同士が反応することで目的のタンパク質の結合を促す仕組みである。この手法は生体内で反応が生じる為、細胞膜透過性が良く、なおかつ合成が簡便である。このようにして、RUNX1-STUB1 PROTACsを作成する。
B:申請者らは、RUNX1の基質E3リガーゼを同定する際にRUNX1非分解型E3リガーゼRNF38及びDTX2を同定している。本年度、RNF38に関して特定の血球分画に対してRUNX1と強調しRUNX1の機能を高める事を報告した。来年度は、もう一つのE3リガーゼであるDTX2に関しての解析を進めようと考えており、現在までにRUNX1の機能を抑制し、RUNX1依存性細胞株の増殖を抑制するというところまで突き止めている。したがって来年度は、DTX2がRUNX1の機能を分解以外のユビキチン化修飾でどのように抑制しているのかを検討したい。具体的には、分解以外のユビキチン化修飾として細胞内の局在変化やDNA結合能の変化などが知られており、DTX2によるRUNX1への局在変化の影響や、転写因子としてのDNA結合への影響を免疫染色や、ChIP-Seqなどを用いて検討したいと考えている。
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