研究課題/領域番号 |
18J22113
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
横溝 和樹 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ノーダルライン半金属 / 超格子 / 量子異常ホール効果 / 非エルミート / 複素ブロッホ波数 |
研究実績の概要 |
本年度、我々は以下の2つの研究に取り組んだ。1つ目に、ノーダルライン半金属と通常の絶縁体の超格子におけるトポロジカル相の制御に関する研究を行った。そして、解析計算によって次の2点のことが明らかになった。まず、積層方向と超格子の各層の厚さを変化させても対称性を破らない限りはトポロジカル相の制御ができないことである。しかし、ノーダルラインが出現する面と積層方向が平行な場合、各層の厚さを変化させることでリフシッツ転移を起こし、ノーダルラインの組み換えを起こすことができるということを明らかにした。次に、磁性不純物を加えて系全体を磁化させ、時間反転対称性を破れば、ノーダルライン半金属相とは異なるトポロジカル相を発現させることができることを示した。特に、トポロジカル転移を起こすと超格子は量子異常ホール効果を示し、そのホール伝導度は磁化の強さではなく超格子の各層の厚さで決められる。2つ目に、上記の研究と並行して近年注目を集めている非エルミート系におけるトポロジカル相に焦点を当て、研究を開始した。そこで、非エルミート系におけるトポロジカル相の空間的制御の研究を主軸にするために、非エルミート系の研究に関して活発に議論がなされていた問題について取り組むことにした。すなわち、エルミート系におけるトポロジカル系においてよく知られていたバルクエッジ対応が非エルミート系では破れているように観測されるという問題である。我々は複素ブロッホ波数に関する先行研究から着想を得て、1次元非エルミート系におけるバンド理論を構築した。この理論では、一般的な強束縛模型においてブリルアンゾーンを計算する手法を確立した。そして、適切なトポロジカル不変量をこのブリルアンゾーンを用いて定義することによって自然にバルクエッジ対応を示すことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、2つの項目について研究を行い大きな成果を上げた。1つ目にノーダルライン半金属と通常の絶縁体とで構成される超格子について、出現するトポロジカル相を理論的に明らかにした。ノーダルラインの出現する面と積層方向との相対的な方向性や、また時間反転対称性の破れなどにより、量子異常ホール相を含むさまざまなトポロジカルな相が現れることを明らかにして、論文を執筆し、Journal of Physics: Condensed Matterに掲載された。2つ目に、非エルミート系におけるトポロジカル相でのバルクエッジ対応の破れの問題に新たに取り組んだ。その成果として、1次元非エルミート系におけるバンド理論を構築することができた。こうした非エルミート系ではブロッホ波数が複素数になることが知られていたが、許されるブロッホ波数の集合、すなわちブリルアンゾーンが一般の系でどのようになるかは明らかになっていなかった。我々は一次元の一般的な強束縛模型においてブリルアンゾーンを計算する手法を確立し、それを用いてトポロジカル不変量を定義し、バルクエッジ対応を初めて示した。この成果に関してすでに国際学会等で学会発表を行い、論文を投稿し現在査読中である。2つ目のテーマについては当初計画にはないものであるが、非エルミート系の物理の基礎理論となる重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
超格子を用いたトポロジカル相の空間的制御に関する基礎的な研究は、今年度までの研究によってほとんど整備されたと考えられる。したがって、次年度は当初の計画通り2次元系、つまり薄膜を用いたトポロジカル相の空間的制御に関する研究を行う。本年度の非エルミート系に関する研究は1次元系に限ったものであった。よって、特にこの先行研究を2次元系に拡張するための研究を中心に取り組む方策である。さらに、グラフェンやパイロクロア結晶、またはこれら結晶を構成する格子を用いたフォトニック結晶でこのような非エルミート系が実現できるかどうか探索する。
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