研究課題/領域番号 |
18J22138
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 雄貴 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / FFLO / 熱伝導率 / 電子ネマティック相 / 量子臨界点 / 非フェルミ液体 |
研究実績の概要 |
当該年度は主に鉄系超伝導体FeSeに関する研究を行い、以下の成果を得た。 (1)2度に渡りオランダ(ナイメーヘン)にあるRadboud大学の強磁場研究所 (High Field Magnet Laboratory) に滞在し、最高磁場38 T、最低温度0.6 K程度の極限で熱伝導率を測定できるシステムを立ち上げた。このような強い定常高磁場下での熱伝導率測定は世界でも例のない未踏の領域である。このシステムにおいて、鉄系超伝導体FeSeの面内方向に強磁場を印加して熱伝導率を測定した結果、24 T付近で熱伝導率の明確な飛びを観測した。この異常は超伝導相内部で起こっており、FeSeが低温高磁場で別の超伝導状態へと一次相転移をしている強い証拠であると考えられる。この新しい高磁場超伝導相では、高磁場下でスピン分極が異常に大きくなった結果、電子対が有限の運動量をもった「FFLO状態」が実現していると考えられる。 (2)Fe(Se,S)系において、磁性を伴わないネマティック量子臨界点近傍で非フェルミ液体状態が現れることを輸送係数から観測した。さらにこの量子臨界点における振る舞いが、他の鉄ヒ素系や銅酸化物高温超伝導体、重い電子系などでみられているような反強磁性的量子臨界現象と類似していることを発見した。このことは非従来型超伝導体において、ネマティック秩序と磁性秩序が引き起こす量子臨界性に一種の普遍性を存在することを示唆しており、本研究目的である電子ネマティック相と高温超伝導との関係性を理解する上で重要な知見を与えていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)における成果では、オランダへの限られた渡航時間の間に測定装置の立ち上げに成功し、狙いの磁場温度領域において信頼に足る測定を十分な回数行うことが出来た。FeSeでは面間方向の磁場下でFFLO状態が実現している可能性が以前から指摘されていたものの、面内における磁場誘起超伝導相は極めて大きな磁場が必要になると考えられるため、これまで観測された例がなかった。本成果では測定可能な磁場域内で相転移をとらえることが出来たのみならず、当初の予想に反して熱伝導の飛びという一時転移的な振る舞いを観測することが出来た。この結果はこれまでの面間方向の報告よりも、高磁場超伝導相のより強い証拠を与えていると考えられる。 また従来の考えでは、ネマティック量子臨界点において現れる量子揺らぎは非フェルミ液体に関与しないと考えられていた。(2)の成果ではこれに反してFe(Se,S)において輸送現象によって量子臨界的振る舞いが明らかにされた。この結果も当初の研究計画を越えた成果である。 以上の理由から、当研究は当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)に関連して、相転移を議論する上では熱力学量による検証が不可欠であるため、熱伝導率以外の物理量についても高磁場超伝導相を検証する必要がある。今後はより基本的な比熱の測定を、高磁場において行える装置を立ち上げる予定である。 さらに昨年度に得られた近藤絶縁体における成果を発展させ、今年新たに見つかった化合物の測定を予定している。試料はすでに共同研究者から提供されているため、すぐに実験に取り掛かることが可能である。
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