当該年度は以下の研究実績を得た。 (1)最高磁場17 T、最低温度0.5 Kまで測定可能な比熱測定システムを立ち上げ、鉄系超伝導体FeSeの比熱を面間磁場下において詳細に測定し、低温高磁場領域において相転移が起こっている熱力学的な証拠を得た。さらに同一の単結晶試料では、STM/STS測定によって試料表面で超伝導のシグナルが臨界磁場よりも低磁場で破壊されていることが観測されており、表面とバルクで異なる超伝導秩序変数が実現していることが示唆される。これらの結果は、FeSeの低温高磁場相においてFFLO状態が実現している強い証拠を与えている。 (2)最近新しく発見された近藤絶縁体YbIr3Si7について、その低エネルギー励起を詳細に調べた。初年度に研究を進めていた近藤絶縁体YbB12が非磁性であったのに対して、YbIr3Si7はネール温度4 K以下で反強磁性秩序を形成し、さらに2.5 T程度の磁場を印加することで別の反強磁性相へと相転移を起こす。熱伝導率を0.1 K程度まで測定した結果、低磁場域ではフェルミオン励起の寄与を与える有限の残留熱伝導率が観測され、この値が荷電粒子について成立するWiedemann-Franzの法則では説明できないほど大きな値をとることが明らかになった。このことは中性フェルミオン励起による熱的金属状態が、近藤絶縁体の多くの系で広く存在していることを示唆している。さらに高磁場の反強磁性相では熱伝導率が急激に0に向かう様子が観測され、熱的絶縁相が実現していることが分かった。本成果は、中性フェルミオンが系の磁性と密接に関係しているという新しい知見を与えるものである。
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