研究課題/領域番号 |
18J22147
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
射場 智大 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 血管内皮幹細胞 / シングルセル解析 / 多様性解析 / 血管再生 / 虚血性疾患 |
研究実績の概要 |
血管は全身に張り巡らされた組織であり、血液の循環と共に酸素や栄養の供給、ならびに二酸化炭素、老廃物を組織から回収する役割を担い、生体の恒常性維持に深く関与している。血管は一般に三層から構築され、最内層を構築しているのが血管内皮細胞である。血管内皮細胞は組織や器官によってその形態的構造が異なることが知られており、例えば肝臓ではよりよく物質の交換を行う事が出来るよう多くの小孔がある類洞構造となっている事が知られている。一方で、これらの構造的な違いが生じる機構や組織に内在する血管内皮に多様性があるかについては不明であった。当研究室では、血管内皮細胞の多様性に着目し研究を行い、増殖能や分化能が高い血管内皮細胞の集団として、細胞表面にCD157と呼ばれる特徴的なタンパクを発現する細胞集団を同定し、これを血管内皮幹細胞として報告してきた(Cell Stem Cells, 2018)。しかしながら、CD157陽性血管内皮細胞はその全ての細胞に幹細胞性が備わっているのではなく、依然として多様性に富んだ細胞集団である事が分かっている。そこで本研究では、CD157陽性細胞の中から幹細胞性を決定付ける因子を同定する事を目的としてシングルセルRNAシーケンス解析といった1細胞単位で遺伝子発現強度の比較が可能である実験手法を用い、解析を行なった。更には、血管内皮幹細胞が虚血性疾患などの治療に用いる事が可能であるか、検討を行なった。現在までに、以下の事が分かっている。 ①CD157陽性の血管内皮幹細胞は遺伝子発現レベルで複数の細胞集団に分かれる事(多様性の同定) ②脂肪や皮膚組織など臨床的に比較的可用性の高い組織由来の血管内皮幹細胞を虚血性疾患モデルマウスに移植する事で血管の再生が可能である事(治療応用の可能性を提示)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度はCD157陽性血管内皮細胞について、シングルセル解析を通じて、より幹細胞性の高い細胞集団を母集団の中から同定することを目標として研究計画を立てていた。肝臓、肺、心筋の3組織からCD157陽性血管内皮細胞を採取し、遺伝子発現レベルでの多様性の解析を行なった。その結果、いずれの組織由来CD157陽性血管内皮細胞も複数の遺伝子発現特性を持った細胞の集合である、すなわち多様性を持った細胞集団であることが明らかとなった。更に、脂肪及び皮膚といった臨床的に比較的可用性が高い組織から幹細胞性の血管内皮細胞を採取し、これをマウス下肢虚血モデルへ移植することにより、マウス生体内で血管の再生に移植した細胞が貢献している事が明らかとなった。この事は、血管内皮幹細胞を用いた虚血性疾患の治療の可能性を示している。以上のように平成30年度は、CD157陽性血管内皮細胞における、幹細胞性の高い細胞集団の同定に向けて、着実に研究が進められていることに加え、血管内皮幹細胞の医療応用性についても研究を進める事ができたため、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、引き続き幹細胞性のより高い血管内皮細胞の同定に向けて、幹細胞性の高い血管内皮細胞で特異的に発現している遺伝子を同定することを目標として研究を進める。具体的には、引き続きシングルセル解析により遺伝子発現レベルでの血管内皮細胞の多様性解析を行うが、平成31年度は平成30年度に行なった肝臓、肺、心筋の3組織について、より多くの細胞を採取、解析し、より詳細な解析を行う予定である。可能であれば、新たに他組織由来のCD157陽性血管内皮細胞についても解析を行いたい。シングルセル解析によって、幹細胞性が高い血管内皮細胞で特徴的に発現している遺伝子群を同定したのち、生体内で、これらの遺伝子群がどのような局在をしているかの解析や、系譜解析などに繋げていく予定である。
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