研究課題/領域番号 |
18J22162
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北條 大樹 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 反応スタイル / 係留ビネット法 / 項目反応モデル |
研究実績の概要 |
本研究の大きな目的は、心理学質問紙に表れる調査回答バイアスを、統計分析のみならず、測定方法を工夫するなどの方法論的観点も含めてバイアス統制可能な調査デザインを提案することであった。そして、この実現に関して、単に心理測定学的研究として、シミュレーション実験や単一実データの解析による結果を示すだけではなく、実際の調査を行う研究者や調査者に使ってもらえるような環境を構築することを最終目標とし、統計学の理論的研究と心理学調査研究の応用研究の乖離を減らすことも目標であった。 今年度は、これらの主要な目的を達成するために、3つの視点から研究を実施した。1つ目は、係留ビネット調査で既に用いられている統計モデルの整理とその精度の比較、そして、新たなモデルの提案である。本研究では、既存の統計モデルを網羅的にパラメータリカバリの性能をチェックするシミュレーション研究を実施した。その結果、既存の統計モデルをパラメタリゼーションによって統一化し整理することができた。そして、既存のモデルを整理したことによって、新たなモデル拡張へとつなげることができた。 2つ目は、約70年前から報告されてきた反応バイアスに関する知見を縦断的かつ横断的にレビューすることができた点である。この研究成果は、本研究計画の解決すべき大きな柱として掲げている、理論研究と実際の調査研究の乖離を埋めることにもつながるだろう。 3つ目は、調査反応バイアスに限定せず、様々な場で調査研究に関する講演やワークショップを行ったことである。これによって、複数の利益を得ることができた。まず始めに、実際に調査研究を行っている研究者とのネットワークを構築することができた。これは、今後、本研究計画の反応バイアス統制可能な調査環境構築の際に大きく役立つだろうと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように判断した理由として、今年度の研究計画を達成するために大きく2つの視点から研究を実施し、現在、その論文化を進めている段階だからである。当初より予定した2つの研究計画は以下である。 1つ目は、係留ビネット調査で既に用いられている統計モデルの整理とその精度の比較、そして、新たなモデルの提案である。まず、これまで提案されてきた係留ビネット調査の統計モデルの多くは、経験的な観点(実データ)を用いた検討が殆どであった。そのため、本研究では、既存の統計モデルを網羅的にパラメータリカバリの性能をチェックするシミュレーション研究を実施した。その結果、既存の統計モデルをパラメタリゼーションによって統一化し整理することができた。そして、既存のモデルを整理したことによって、新たなモデル拡張へとつなげることができた。 2つ目は、約70年前から報告されてきた反応バイアスに関する知見を縦断的かつ横断的にレビューした点である。これまでの反応バイアス研究は、縦断的にみると同一の概念を様々な用語で表し、研究ごとに似たような概念を区別なく用いており、その研究でどの反応バイアスが問題で、どの反応バイアスを統制しようとしているのかが明確ではなかった。また、横断的にみると、統計学分野で多くの反応バイアスの統制モデルや手法が提案されているにもかかわらず、心理学を始めとする調査研究を行う分野で問題となっているバイアスに、これらの統計モデルが有効に使われていないことが多かった。この原因の一つに、先に述べた、複数の反応バイアスの概念が混在しており、各バイアスに対応する適切な統計モデルが実践研究者にわかりにくいなどの問題があげられる。このような観点から、長年蓄積されてきた、各分野の反応バイアスに関する知見を縦断的かつ横断的にレビューし、複数の類似する概念を整理できたことは本研究における一つの成果だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度に得られた各種知見を早急にまとめ、論文を始めとする様々な媒体で社会に発信し、くわえて、実際の調査研究を通して、提案する調査デザインがどれだけ反応バイアス統制に有効かどうかを検討することを大きな目標とする。そして、最終年度の反応バイアス統制可能な調査デザイン及びそれを実施するための環境構築にスムーズに移れるような準備をする予定である。 具体的には、上半期に実際の調査研究を行う。これによって係留ビネット法による反応スタイル統制の妥当性を検証する。そして、この調査結果を踏まえ、調査回答プロセスを考慮したベイズ統計モデリングを実施する。下半期は、次年度に完成予定の反応バイアス統制可能な調査デザインを実施するための環境構築を行う。まず、既存の尺度項目分析から本研究提案の項目反応モデル分析を網羅したRパッケージを作成する。そして、それを踏まえ、shiny等のwebアプリケーションをベースにブラウザ上で調査と分析が実施可能な環境の整備を行う。これらが一通り完成した後、次年度以降に試運用として外部研究者に使用してもらいフィードバックを受け、修正する予定である。
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