研究課題/領域番号 |
18J22190
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 漱太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | ウマ / ドローン / UAV / 群れのルール / 集団行動 |
研究実績の概要 |
野生ウマを対象として群れ内での個体の空間配置・動きの規則に関する研究をおこなった。 5月から7月まで調査地であるポルトガル、アルガ山にて現地調査をおこなった。群れを終日追跡し、30分に一度ドローンを用いて空撮動画を収集した。 前年度までに収集したデータと合わせて解析したところ、次のような重要な進展があった。 まず個体間の配置には空間的非対称性が認められた。最近接個体間において、前方個体は相手個体を左後方におき、後方個体は右前方におくことが明らかになった。この結果は、群れによらず、調査期間にもよらない頑健な結果だった。以前より母子間でこのような非対称性は報告されていたが、成熟個体間でもその傾向が継続することを明らかにした。神経・脳科学からの知見によると右脳による社会的情報処理の優位性がこのような空間的非対称性を引き起こしていると考えられる。また、群れ内での個体の配置規則、行動規則を考えるうえでも重要な発見である。現在、論文を投稿し、査読中である。 一方で、京都大学学術情報メディアセンターとの共同研究により、数理モデルからウマの個体間における誘引・反発に関する規則の定量化をおこなった。距離のみを変数にもつ関数から誘引・反発を決定する力を再現した。これに関して、現在論文執筆中である。 野外での空撮動画から個体を抽出し、トラッキングを可能にするプログラムを作成した。これは、グラスゴー大学との共同研究によりおこなわれた。通常、ドローンのような撮影デバイス自体が動き、野生環境のような背景が一様でなく、日光による影響も大きな条件で個体の自動トラッキングをおこなうことは簡単ではない。これを解決するために、機械学習を用いたプログラムとドローンの動きと個体の動きを識別するプログラムを組み合わせた。現時点で実用レベルに達しており、今後の解析において、非常に重要な準備が整ったと言って良い。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現地調査にて、スムーズにデータを収集することができた。群れ構成、環境条件などを比較し、共通性と多様性を発見するうえで、データの収集が期待通り進展したこと自体がフィールドワークにおいては重要な進展である。 数値シミュレーションによる個体間における距離の調整原理を再現できたこと、最近接個体間には非対称性があることなど、ウマの群れの配置・動きの規則を考えるうえで基本的知見を発見できたことで、今後の群れにおける複雑な現象を考える準備が整ったと言ってよい。 また、解析手法の開発という面でも、苦労することが予測された個体の自動トラッキングプログラムの開発を年度内で完成させらた。これは、今後の解析において間違いなく大きな進展をもたらす。 研究発表の面では、空間配置の非対称性と数値シミュレーション結果に関して、2編の論文にて報告することを予定しており、その他の結果も合わせて学会にてすでに発表済み、もしくは発表を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
5月-7月まで再度ポルトガルに渡航し、データの収集をおこなう。秋以降にグラスゴー大学との共同研究を進め、動きの同調や意思決定メカニズムといった複雑な現象の定量的理解を目指し解析をおこなう。順調であれば年度内に論文の投稿まで進むことができると予定している。
|