研究課題/領域番号 |
18J22192
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩川 直都 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | アミロイド / 高分子混雑 / NMR |
研究実績の概要 |
細胞内を模倣した混雑環境におけるフォールディング安定性の定量 我々のこれまでの研究から、混雑環境においてSOD1のアミロイド形成は促進されることが予測された。しかしながら、実際に得られた結果は、混雑環境においてSOD1のアミロイド形成が抑制されることを示唆するものであった。つまり、混雑環境において検出されたダイナミクスは、天然構造とアミロイド形成に関わるon-pathwayの構造変化ではなく、off-pathwayの構造変化であることが示唆され、このoff-pathwayの構造変化が細胞内でのアミロイド形成と大きく関連している可能性が示唆された。 Rheo-NMR法を用いたアミロイド形成機構の解明 Rheo-NMR装置の内管がNMR管の中心に設定される精度を上げることにより、Rheo-NMR実験の再現性を高めることに成功した。この改善を行なった上で、尿素共存条件においてRheo-NMR測定を行なった。これにより、99%程度が天然構造を有する尿素非存在条件ではSOD1のアミロイド形成の遅延時間は100時間程度であるのに対して、90%以上が変性構造を有する4 M尿素存在条件では5時間程度と、大幅に短縮されることが明らかとなった。この結果から、SOD1のアミロイド形成には、構造が壊れ変性構造へと移行する段階が律速となっていることが示された。 また、蛍光法等によるアミロイド形成実験では、アミロイド線維の量は時間に対してシグモイド様に増加するが、Rheo-NMR法では、遅延時間中に単量体由来のNMRピーク強度の減少が見られた。これは、遅延時間における分子間の相互作用によるNMRピークの高幅化を示唆するものであり、既存の手法では入手困難である遅延時間におけるアミロイド形成挙動を観察できていると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、上記の通り昨年度までの仮説と異なる結果が得られたため、当初の計画とは異なる研究を進めた。しかしながら、現在、共同研究者と深い議論を行なっており、実際の生体内でのSOD1アミロイド形成機構に関するより深い理解に繋がると考えている。 Rheo-NMR法については、これまで再現性が低かったが、本年度の研究により再現性の向上が達成された。これにより、今後のRheo-NMR法を用いた研究がより発展することが期待される。さらに、構造安定性とアミロイド形成測度に関する知見が得られた。これはSOD1のアミロイド形成機構解明につながる重要な知見であると考える。 また、昨年度のイギリスSheffield大学への留学中に行った、高圧NMR法を用いたタンパク質の高エネルギー状態に関する論文を国際学術誌に投稿し、受理された。 以上のように、SOD1アミロイド形成機構の解明に近づいているため、当該研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内を模倣した混雑環境におけるフォールディング安定性の定量 上述の通り、混雑環境におけるoff-pathwayの構造状態の安定化が混雑環境におけるSOD1のアミロイド形成を抑制している機構が示唆された。しかしながら混雑環境によるoff-pathway状態の安定化だけでは説明できない程のアミロイド形成抑制効果が混雑環境においては確認された。そこで我々は、混雑環境と変性状態のSOD1との相互作用がSOD1のアミロイド形成を抑制しているという仮説を立てた。天然状態のSOD1と混雑環境との相互作用は大きくないことがこれまでの研究で明らかとなっている。一方、アミロイド形成の前駆体である変性状態のSOD1と混雑環境との相互作用は未解析である。そこで本年度は、尿素共存により変性させたSOD1に対してクラウダーを添加しNMR測定等を行うことにより、これらの間の相互作用を明らかにする。この結果から、変性構造からアミロイド線維へと構造変化する際に重要な構造部位が原子分解能で明らかとなることが期待される。 Rheo-NMR法を用いたSOD1線維形成過程の観察 遅延時間中に見られる天然構造由来のピーク強度現象の原因を明らかにするために、緩和実験およびCEST法等を行う予定である。これらにより、原子分解能でのダイナミクスや相互作用に関する知見が得られ、従来の手法では解明できなかった詳細なSOD1アミロイド形成機構解明につながることを期待する。
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