研究課題/領域番号 |
18J22254
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 大地 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | バンド構造制御 / 結晶構造制御 / 光触媒 / 複合アニオン |
研究実績の概要 |
可視光応答型水分解光触媒であるBi4NbO8Clを含む層状酸ハロゲン化物のバンド構造を調べることで、これらのバンド構造の違いがマーデルングポテンシャルに由来することを見出していた。さらにマーデルングポテンシャルを層毎に解析することでバンド構造と結晶構造(層のスタッキング)との関係を明らかにしていた。しかし、この時点でのマーデルング解析は4オングストロームより遠いイオン影響を無視しており、解析が完全とは言え無かった。静電相互作用は長距離に及ぶため、遠くのイオンも大きな影響を有していると予想されるが、従来の研究ではそのような遠距離のイオンの影響が注目されることは無かった。そこで、今年度はこのマーデルング解析を拡張し、数百オングストロームまでのイオンをシステマティックに取り組み、より遠くのイオンがバンド構造に及ぼす影響を明らかにした。本成果は現在査読誌に投稿中である 特異なバンド構造については、BiやPbのローンペアも重要な役割を果たすことが知られている。このローンペアーの影響を明らかにするため、Sillén物質の一つであるSrBiO2XのSr2+を同価数だがローンペアーを有するPb2+に置換した。その結果、Sr体と比較してPb体の価電子帯位置が0.8 V近く高く、バンドギャップについてもSr体の3.55 eVに対して、Pb体では2.51 eVとかなり小さくなることが明らかとなった。さらに第一原理計算よりPbBiO2XにおけるPb-6s軌道とO-2p軌道の混成が示唆され、ローンペアーの有無が価電子帯の酸素バンドを大きく上昇させていることが明らかとなった。また、PbBbiO2ClはFe2+/Fe3+レドックスおよび水素生成系光触媒と組み合わせることで、可視光照射下で水を分解可能であることも初めて実証した。本成果はChemistry of Materials誌に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この一年を通じ積極的に研究に取り組み、非常に興味深い成果を複数出している。修士過程の終盤において、層状ハロゲン化物の物質群のバンド構造がお互いに異なる理由を、マーデルング解析を用いて明らかにしていたが(J. Am. Chem. Soc. 2017)、今年度はさらにマーデルング解析を拡張することで遠距離のイオンがバンド構造にどのように関わっているかを明らかにし、論文を投稿し現在リバイスを行っている最中である。さらにPbBiO2XとSrBiO2Xのバンド構造を比較することで、マーデルングポテンシャルに加えて、バンド構造を決定する上でローンペアーも重要な要素であることを見出した。また、開発に携わった新規可視光応答型光触媒Bi4NbO8Clが、La固溶に伴い構造相転移を起こすことは以前から知られていたが、構造解析や活性評価は行われていなかった。さらに今年度、これらを詳細に解析することで、構造相転移が光触媒活性に及ぼす影響を明らかにした。この成果は、光触媒活性を向上させる新たな戦略を示唆しており、非常にインパクトが大きいことが期待される。以上のように、研究は順調に進展しており、来年度ではより一層の発展が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今まで層状酸ハロゲン化合物のバンド構造がマーデルングポテンシャルおよびローンペア効果によって左右されることを見出した。この層状酸ハロゲン化合物のファミリーは無数に存在し、光触媒の有力な候補であるが、その多くは未だ未探索である。今まで得られたバンド構造制御に関する知見をもとに、更に高活性高効率な光触媒材料の探索および開発を行っていくとともに、活性(量子収率)を高める点に関しても研究を継続していく。
|